(参考写真)銃を携行して中国との国境警備に動員された民間人。予備軍の「労農赤衛隊」と思われる。2017年9月末に平安北道を中国側からパク・ヨンミン撮影(アジアプレス)

北朝鮮では昨年12月1日から軍の定期冬季訓練が始まっている。それに合わせ2024年初から民間人の軍事訓練も始まったが、例年より強度が高く不満が募っていることが分かった。南北関係の緊張も相まって、当局は「戦争に備えよ」と危機を煽動しており、全住民に軍隊への物資支援も促されているという。咸鏡北道(ハムギョンプクド)の複数の取材協力者が伝えてきた。(カン・ジウォン/石丸次郎)

◆訓練に参加しない者は配給と労賃を削減

咸鏡北道の茂山(ムサン)郡には北朝鮮最大の鉄鉱山がある。1月中旬から鉱山の労働者たちは、通常の仕事に加えて予備軍の「教導隊」の訓練が義務付けられている。茂山郡に住む取材協力者は、今年は正規軍並みの厳しい訓練が課されているとして、次のように状況を伝えてきた。

「とてもしんどい。鉄鉱山では採石場や精鉱場のような基本職場だけを動かし、残りの人員は交代で『教導隊』の訓練に動員されている。朝8、9時から始まる訓練は、まるで軍部隊の日課生活のようで、兵士に劣らない厳しい訓練だ。陣地保守と陣地占領の訓練、機動訓練もやっている。軍装の冬服、帽子、ベルトの着用を義務付けている。訓練に参加しない者は食糧配給と労賃を削減すると通告された。辛くても参加せざるを得ない」

※教導隊 主に17歳から50歳までの除隊軍人と未婚女性などで構成される予備軍。陸軍歩兵師団レベルの武装と編成を備えているとされる。

「今年は寒いし食糧配給も少ないのに、訓練だけは厳しくなったので辛がっている労働者が多い。職場に来て講演した党の幹部は、『周辺情勢が深刻で緊張しているので、今すぐに戦争が起きてもおかしくない。皆緊張して動員された態勢を維持せよ。我われの核武力と一心団結で、敵どもと一気に決着をつけなければならない。そのために訓練をしっかりするのだ』と言っていた」

軍事パレードで行進する「民防衛」の予備軍。2023年9月9日の朝鮮中央テレビより引用。

◆訓練には100%参加せよと指示

同じ咸鏡北道の会寧(フエリョン)市でも民間人の軍事訓練が1月から同様に始まっていた。会寧に住む協力者は、「民防衛」と呼ばれる予備軍の訓練について次のように伝える。

「金正恩元帥様の卓越した領導で核、ミサイル武力が世界最高になった。敵のいかなる挑発にも一撃で反撃できるよう準備しろと、1月初めに労働党の中央から指示があったそうだ。それで、今年は住民たちを『民防衛』訓練に100%参加させよということになり、個人の事情や病気を理由に参加できないという者に対しては、(事実かを)厳しくチェックしている。金を出して病院で診断書を出してもらって抜けようとする人がいるが、もし偽の診断書を発行した医師がいたら資格証を没収すると脅している。

工場や企業では、『戦闘非常背嚢』の検閲があった。リュックに食糧1週間分、ライター、マッチ、医薬品、毛布、固形燃料、塩などをきちんと備えているか確認した。今年は『民防衛』にも移動訓練、陣地占領訓練、実弾射撃訓練などを本格的にさせるそうだ」
※民防衛は、教導隊だけでなく他の民間の予備軍組織全般のこと。

◆手袋、ベルト、ブタ肉…軍隊への支援を要求

民間武力組織の訓練強化の一方で、軍隊への物資支援を督促する動きも強い。

「1月6日の人民班会議で、軍人たちの冬季訓練の成果を保障するため、全群衆的な支援運動を進めるとの通告があった。世帯ごとに割り当てられた課題(ノルマ)の他に、手袋、ベルト、ブタ肉などの物資支援を自発的に行え、支援の意思のある者は人民班と洞役場を通じて支援物資の数量と品目を知らせるように言われた。

軍人たちが十分に訓練できるよう、住民は自発的に国を守るのに貢献しろというわけだ。人民班だけでなく、女性同盟、青年同盟などの社会団体に対しても、軍隊への支援事業を全群衆的運動として拡大するよう指示があった。

支援品を出した模範的な家庭や企業所、社会団体、個人は、表彰するとともに、党の配慮として温泉やスキー場などの利用券を与えるそうだ」

※人民班は末端の行政組織で、地区ごとに20~30世帯ほどで構成される。

茂山、会寧では1月中旬からインフルエンザと風邪が大流行しているそうだ。「周囲の3割は寝込んでいる。民間武力の軍事訓練はまともにできないでいる」と会寧の協力者は述べた。

※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。

北朝鮮地図 製作アジアプレス

 

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