鴨緑江上の運搬船で働く北朝鮮の労働者。犬を連れている。2023年10月に中国側から撮影アジアプレス

◆昨年末に北部都市では全職場で実施

北朝鮮当局が2023年11月から12月にかけて、国営企業の労働者や公務員の労賃を大幅に引き上げたことが分かった。上昇幅は年初に比べて10倍以上に及ぶ。複数の地域の取材協力者が調査し伝えてきた。職場によっては支給を電子カードで行っている。金正恩政権による破格の「賃上げ」の目的は何なのか? 2回に分けて報告する。(カン・ジウォン/石丸次郎

◆幹部でもコメ2キロ買えない水準だった

結論から言うと、金正恩政権による突然の「賃上げ」の目的は、国営の食糧専売店(糧穀販売所)でコメとトウモロコシを購入する費用に充てさせることのようである。その詳細については後述する。まず、最近の労賃(北朝鮮では月給とは呼ばない)の体系について説明しておきたい。

アジアプレスでは2023年3月に咸鏡北道(ハムギョンプクド)と両江道(リャンガンド)で労賃調査を実施していた。この時の国営企業のひと月の労賃は、一般労働者が概ね1500~2500ウォン、下級幹部は4000ウォン、課長、部長級は6000~8000ウォンだった。また、地方政府に当たる人民委員会の幹部公務員は5000ウォンから8000ウォン程度であった。

3月時点の実勢交換レートは1000ウォンが約16日本円。つまり最高給の8000ウォンでもわずか128円ほどでしかない。同時期、市中の食糧価格は、1キロ当たり白米6000ウォン、トウモロコシ3000ウォンほどだったので、公定の労賃が購買のために意味をなさない水準であったことがよくわかる。ただし、パンデミック後、公務員には食糧配給があった。

「ここから軍隊支援、水害復旧支援などの名目で差し引かれるので、労賃を当てにする人なんていない」と、協力者たちは口を揃える。

コロナ防疫のためとして国境を封鎖して財政危機に陥った北朝鮮は、2021年8月に臨時金券「トンピョ」を発行した。

◆13年間ほぼ変わらなかった労賃体系

2020年以前は、食糧配給が出るのは公務員や企業の一部だけで、大半の人が商行為や私的な賃労働、賄賂など、他の方法で現金収入を得て、市場で食糧など必需品を買って暮らしてきた。例えば、パンデミック前は土木工事などの私的な日雇い仕事に出ると1日に1万ウォン程度は稼げていたのである。

3月の調査時の労賃水準は、2009年11月末に金正日政権が断行した「貨幣交換」(通貨を100分の1に切り下げた)以降、2倍程度上昇しただけだった。2013年頃から企業の裁量権が大幅に認められるようになり、収益を上げている会社の中には、月労賃30~50万ウォン、加えて白米や食用油、酒、肉などを現物支給する所もあった。

教員だけは例外だ。2019年頃に、1万5000~1万8000ウォン程度に引き上げられ、皆無だった食糧配給も出るようになっていた。生徒の親に対する金品要求や収賄が横行したため、金正恩氏が直々に待遇改善を指示したとされる。

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