◆予想される問題点の数々
あらためて整理すると、金正恩政権が目論むのは、(1)食糧の配給制と専売制の混合策によって食糧流通を国家に一元化すること、(2)住民の私的な経済活動を抑制し、配置された職場に出勤させること。これは集団主義を強化するために、できるだけ多くの人を組織生活に組み込もうという意図だと言える。反市場政策の一環であることは間違いない。
たが、金正恩政権の新政策は目論見通りに進むだろうか? もっとも憂慮されるのは、出勤者に対する職場を通じた配給と、「糧穀販売所」での販売だけで絶対量が足りず、住民たちが暮らしていけないことだ。また、そもそも食糧の配給と専売を安定的に続けられるのか、すなわち、新政策を続けていくために食糧を国が確保していけるのか、はなはだ疑問である。
北朝鮮では毎年3月頃から「ポリコゲ」と呼ばれる収穫の端境期が始まる。前年秋の収穫分を消費して在庫が減り、農村は飢えに苛まされ、軍兵士への支給が減って兵営に栄養失調が蔓延する…そんな事態が毎年繰り返されてきた。
また、大幅に引き上げられた労賃を払い続けることができるかという問題もある。企業ごとに差があるとはいえ、現在の北朝鮮の工場・事業所は、施設や設備の老朽化と資材や燃料の不足で、多くが稼働不良の状態だ。出勤しても仕事がない、企業が不足する資金を稼ぐために、従業員を集団で業務と関連のない建設現場に投入するという現象が数多く報告されている。
食糧の流通を国家が一元管理して人民を統制・服従させようという「カロリー統治」は、経済合理性、採算を考えても持続可能か大いに疑問である。金正恩政権の新たな食糧管制度は、「ポリコゲ」が始まる春先に試練に立たされる可能性がある。(了)
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