<北朝鮮内部>韓国は敵だ…金正恩の「断韓」宣言後の国内動向とは(1) 住民は驚きと当惑 全組織で一斉に宣伝と教化作業
「もはや韓国は同族でも統一の対象でもない敵である」。昨年末、金正恩氏はこのように「断韓」を宣言し、韓国はじめ国際社会に衝撃が広がった。肝心の北朝鮮国内では、「断韓」はいったいどのように評価されているのだろうか。国内の反応と動向について、取材協力者の受け止めと社会の空気について報告する。(カン・ジウォン/石丸次郎)
◆「『断韓』は韓国文化遮断が目的だと思う」
連載の1回目では、両江道(リャンガンド)に住む複数の取材協力者から聞いた「断韓政策」に対する戸惑いと、当局による宣伝教化作業の実際について報告した。今回はまず、 咸鏡北道(ハムギョンプクド)の協力者の受け止めた方と、対南政策転換の目的についての意見を紹介したい。いずれも1月後半に話を聞いた。
茂山(ムサン)郡の協力者は戸惑いの空気について次のように伝えてきた。
「南朝鮮をいきなり敵対国だと言い始めたことについて、周りの人といろいろ言い合っているのですが、何がなんだかよく分からないんです。経済協力すると言っていた(2018~19年に南北経済協力が盛んに議論された)時は、すぐに(我われも)豊かに暮らせると宣伝していましたが、今また(韓国は)敵対勢力だ、統一の相手ではないと言っているので混沌があります」
会寧(フェリョン)市の協力者は、「断韓」するという方針転換の目的について、次のように自身の考えを述べた。
「今回金正恩が、『平和統一はありえない、(韓国を)占領平定する』と言っていますが、つまり我われは軍事強国だから(韓米に)十分に勝てると壮語しているわけです。韓国に強く対抗する理由は、すべて韓国文化に対する統制のためでしょう。こちらで「非社会的主義だ、反社会主義だ」と問題視してずっと強力に叩いている言葉遣いや服装、(不法な)映像物、脱北、中国の携帯電話使用などは、すべて韓国と繋がっていることなので、完全に韓国を遮断しようというのが目的だと思います」
◆生活苦しく戦争望む人もいる
「断韓政策」に関する金正恩政権の主張の柱の1つは、敵対国である韓米との戦争の危機が迫っているというものである。現地の住民たちの受け止め方について、両江道の協力者に1月後半に話を聞いた。
――韓国を平定するとか、核兵器の使用も辞さないと金正恩氏は公言しています。
今、人々の大きな関心事は本当に戦争をするのか、南朝鮮と戦って勝てるのかということです。核を持っていると言っていますが、核戦争になったら皆が死んでしまうではないかと、人が集まるとよく話をします。一方、暮らしがとてもしんどいので、戦争が起きてほしいと言う人もいます。
――戦争を望む人がいるということですか?
戦争が起これば死ぬことになるかもしれないが、今のままよりはましだろうということ。戦争をしようが交渉をしようが、とにかく何か変わってほしいという雰囲気があります。
――韓国や米国との核戦争についてはどんな意見がありますか?
核戦争なったら敵も死ぬしこっちも死ぬことになるから、核は最後に使う武器だ。ただ、守るためだけに持っているので、実際には自動歩銃より役に立たないと言う人もいます。おおっぴらに口に出しては言えないけれど、以前からラジオなどを聞いて外部の情勢を少し知っている人たちの間ではそんな雰囲気です。米国やロシア、中国は核兵器をたくさん持っているが、実際に使うことはできないと言っています。
一方で、「我われは強盗のように、米国と日本と韓国を核で脅して食糧支援を受けようとしているのだ」と言う人もいます。(外部世界について)何も知らない無知な人たちは、「(国のために)総爆弾になる、忠誠を尽くす」と言っているけれど、知識のある人たちは、我われがどれほど無知蒙昧でバカのように生きているのかと話します。