◆併合地域で進む「ロシア化」
ロシアは、東部と南部で掌握した地域の一方的な併合を進めている。昨年9月の新年度では、これらの地域でも学校が再開されたが、カリキュラムはロシアの教育内容に沿ったものに改編されつつある。教員不足を補うため、特別報酬を出してロシア国内で教師を募り、すでに3万6千人の教師が派遣された、とロシアメディアは伝えている。ラジオフリーヨーロッパによると、就学児のいる家庭には、1万ルーブル(約2万4000円)の奨励金を給付して通学を促すという。
昨年9月末、プーチン大統領が支配地域4州の「ロシアへの併合」を宣言。今後、教育の「ロシア化」が加速すれば、ウクライナの歴史や文化が否定され、侵攻が「正当なもの」として子どもたちに教え込まれる懸念も出ている。軍事力で地域を併合したロシアは、地図だけでなく、子どもたちの心まで塗り替えようとしているかのようだ。
ラリーサさんは、教室で小学1年の男児に補習授業をしていた。母親とポーランドに一時避難し、その後、帰還してきた男児の学習に遅れがあったためだ。戦争と避難生活で心に落ち着きがなくなり、学習や日常生活に影響が出ている児童が少なくないという。
「愛情をもって接してあげることが、心に傷を負った子たちにとって大切なのです」 ラリーサさんは、そう話す。算数の引き算で、リンゴと梨の絵を見せながら、ゆっくりと教えていた。
「10から3を引いたら7…先生あってる?」 ラリーサさんは「すごい、よくできたね」と優しく言葉をかけ、小さな手をぎゅっと握りしめた。男児は、かわいらしい笑顔を見せた。
◆子どもの心理ストレスが増加
困難に直面しながらも、教育現場では授業を維持するための取り組みが進められてきた。防空警報が発令されても、授業が続けられるよう退避シェルターが拡充されたほか、侵攻前のコロナ禍のなかで構築したリモート学習システムによるオンラインでの授業も取り入れている。国外の避難先でも、ウクライナの学習プログラムに沿った授業を履修すれば、オデーサの学校で修了の認定を受けることができる。
オデーサ市プリモルスキー区のオレーナ・ブイネヴィチ教育長(47)は言う。 「戦争下でもなんとか授業を継続しようと、教師たちは必死に向き合っています」 教育長が最も苦慮するのは、心理的に大きなストレスを抱える子どもたちが増え、心のケアをする心理カウンセラーのサポートが不可欠になったことだという。
教育現場にのしかかる戦争。教師も子どももその犠牲となっている。
(※本稿はふぇみん2022年11月5日付記事に加筆したものです)