2022年に広島市で開かれた「岸田文雄先生 内閣総理大臣就任を祝う会」(以下、「祝う会」)の政治資金パーティ収入の一部が「裏金」になっていた問題。政治資金収支報告書(以下、収支報告書)にパーティの収支を正確に記載しなかったとして、岸田首相と、パーティの主催団体代表で「岸田文雄後援会」(以下、「後援会」)代表者の伊藤學人氏、会計責任者ら4人が、政治資金規正法違反(以下、規正法)の疑いで広島地検に刑事告発された。(フリージャーナリスト・鈴木祐太)
◆政治資金パーティなのに告知すらせず
告発状によると、件のパーティ「祝う会」は、「広島県経済関係団体自治体合同任意団体発起人11名」(以下、合同任意団体)の主催で、22年6月12日にリーガロイヤルホテル広島で開催された。
対価を徴収して行われる催しで、その収入の一部が政治活動に使われるのが「政治資金パーティ」だと規正法で定義されている。そのため政治団体ではない「合同任意団体」であっても「政治資金パーティ」を開催する場合は、パーティであることを告知することが義務付けられている。ところが、「祝う会」は「政治資金パーティ」だったのにもかかわらず、告知をせずにパーティ券を販売し規正法違反を犯していたと告発状では指摘されている。
◆消えた438万円はどこへ?
問題はそれだけではない。規正法によると、政治資金パーティの収入が1000万円以上であれば「特定パーティ」となり収支報告書を提出することが義務付けられている。「祝う会」の会費は一人1万円で、約1100名の参加があった。
この問題を最初に報道したのは「週刊ポストセブン」だ。その記事によると、パーティ券を購入したものの当日欠席した人もいると指摘している。実際のパーティ券収入は1100万円以上あったであろう。ところが「祝う会」は収支報告書を提出していない。規正法違反であると、告発状は指摘している。
この「祝う会」では、コロナ渦だったため飲食はなく、お土産に岸田首相の色紙と著書「岸田ビジョン」(定価1760円)が配られた。会場費、書籍代に加えて、案内状の印刷代などを合計すると支出は約340万円と推定される。
岸田首相が代表を務める「自由民主党広島県第一選挙区支部」(以下、「第一支部」)にも約322万円が寄付金として支出されていた。その合計は約662万円。届け出のあった参加者1100人だけがパーティ会費を払ったと仮定しても、1100万円の収入に対して支出は約662万円しかない。少なくてもこの約438万円が「裏金」になった可能性がある。
告発状でも「本告発は、裏金の真相解明も求めて告発するものであり、御庁(広島地検)が捜査を尽くせば、その全容が解明されるに違いない。そのことを期待して、徹底した捜査を求め告発した次第である」と、広島地検の捜査に期待を込めて結ばれている。
◆パーティ主催はダミーか 主催者と後援会代表は同一だった
「祝う会」の主催団体は「合同任意団体」となっているが、その代表である伊藤氏は「岸田文雄後援会」の代表でもある。「祝う会」の連絡先として、「後援会」の事務担当者の氏名(昨年12月死去)と「後援会」の電話番号が明記されていた。つまり事実上の主催団体は「後援会」だったといえる。いうならば「祝う会」はダミー団体のようなものである。
そのため、本来は「後援会」の収支報告書にパーティの収支を記載する義務があった。それにもかかわらず、記載しなかったのは規正法違反の不記載罪に当たるとして、「後援会」の代表だけでなく会計責任者、事実上の代表である岸田首相も刑事告発されたのである。
◆438万円もの裏金は看過できない
岸田首相らを刑事告発した上脇博之神戸学院大学教授は次のように話す。
「岸田首相は『祝う会』がそもそも政治資金パーティではないと説明していますが、会費1万円で飲食なしであれば黒字になることは明らかでした。現に『第一支部』に約322万円もの寄附をしていました。収入も1000万円未満だったと説明していますが、1100人が参加していたと報道されており、少なくとも1000万円を超える収入があったのですから『特定パーティ』でもあったはず」
「祝う会」が政治資金パーティだったことを上脇教授は強調し、刑事告発の理由を説明する。
「したがって、『祝う会』の主催者が『合同任意団体』であっても規正法違反だし、『後援会』であっても規正法違反になります。いずれにせよ、少なくとも約438万円の裏金がつくられていたことになるので、看過できないと判断し告発しました」
◆岸田首相個人の裏金作りだ
岸田首相は先日国会で行われた政治倫理審査会において、「自民党改革、政治改革の先頭に立ってこの改革を進めていく覚悟」と宣言した。しかし、自身の裏金疑惑を晴らさなくては政治改革の先頭には立てないだろう。
自民党の政治刷新会議は、派閥の政治資金パーティを禁止する方向性を示しているが、個人のパーティは継続する方針だ。岸田首相自身が裏金疑惑を晴らせないのであれば、こうした刷新会議の案自体が政治的なパフォーマンスと言われても仕方ない。
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