<北朝鮮内部>金政権が貿易会社を大リストラ(1) 「反社会主義の温床」と規定し統廃合を強行
「反社会主義的行為」――。北朝鮮でこのように規定されると、無条件で批判と処罰の対象になる。今、貿易会社が批判を浴びて暴風にさらされている。物資の流通を牛耳って暴利をむさぼり人民に被害を与えたとして、組織が大々的に統廃合されているのだ。その実態に迫る連載の1回目は、大リストラに至る経緯と咸鏡北道(ハムギョンプクド)の実例を報告した。2回目は両江道(リャンガンド)の現状について記す。(石丸次郎/カン・ジウォン)
◆貿易会社が「反社会主義」をしている
両江道地域でも貿易会社に大ナタが振るわれた。傘下の組織は統廃合、人員は地方政府機関によってまったく別の工場などに配置されたという。恵山(ヘサン)市で貿易会社から仕入れた中国製衣料品を市場で販売していた女性に、最近の貿易会社動向を聞いた。
――咸鏡北道では貿易会社に対する締め付けが強くなっているそうだ。両江道はどうか?
両江道でも貿易会社に対して闇雲に検閲や調査をやっている。知り合いがいるある会社は、保衛部(秘密警察)傘下なのに、四半期に1度ずつ道貿易局の調査と、検察の会計検閲を受けていると聞いた。
――当然、平壌から強い指示があったはずだが、内容について知っているか?
昨年12月に(労働党の)中央党から、貿易会社が「反社会主義」をしているという厳しい批判が伝達されてきた。内容は「貿易会社を個人の所有物のように変質させて、過去の搾取階級がしたような享楽を享受し、編制にもない良い車を置き、若い女性を職場に受け入れて社会主義供給原則に反する食糧配給と高級労賃を与えている。汗を流して苦労する労働者たちに虚脱感を与えてきた」というものだった。
以前のように、中国に貿易の取引相手がいるからとか、親戚がいるからといって、一夜にして会社を作ったような、そんな時代は過ぎ去った。貿易会社はあらゆる金の流れを当局に公開して、輸出項目や販売金額をすべて道の貿易局に報告しなければならない。国内のあらゆる物資の販売と流通は、当局の許可を得て進める構造に変わった。
◆金正恩氏と中央から直々の指示
――金正恩氏の指示と承認があったはずだと考えられるが。
中央から降りてきた内容には、「『国家貿易』を本格的に推し進めるとともに、対外経済省の統一的な貿易政策を基盤とする自主的な貿易原則を守り、国家の地位を作り直さなければならない」という金正恩の指示のマルスム(お言葉)があったそうだ。
※国家貿易 輸出入する品目や量を国家が主導管理する貿易システム。2019年頃から始まった。それ以前は貿易会社が一定の裁量を持っていた。
◆住民への影響…輸入品の商売はほぼ壊滅
――貿易会社に対する統制が厳しくなったことで、住民たちの商行為にはどんな影響が出ているか?
私は恵山市内の市場で長く中国製の衣料品を販売してきた。貿易会社に出向いて輸入した衣料品を仕入れ、市場で売ったり地方の商人に卸したりして、私一1人の商売で、毎月3000中国元(約6万2000円)くらいの純利益を上げていた。
今はそんな世の中ではなくなった。コロナの時には中国製品がまったく入って来なかったけれど、最近は国の承認を得た少量の中国製衣料品が入って来る。しかし、貿易会社はそれを個人に卸すことができなくなった。すべて国営商店や委託買取商店に卸し売りしなければならない。輸入代金はそうやって作れということだ。
※委託買取商店 資金の乏しい官営の商店には、商品を預かり売れたら精算する形式の販売委託形式を採る所が少なくない。
だから、これまで「トンチュ」(金主の意、新興富裕層)が、貿易会社の品物を独占的に受け取って流通させる時代は終わったのだ。中国から輸入され品は、すべて国営の商業網に行く構造だ。市場の商人は、国営商店から一部を売ってもらって市場で販売していたが、利益がわずかしか出ないので、多くの人が市場での商売やめてしまった。私もやめた。