(参考写真)厳寒の中を一人で杖をついて歩く老婆。「80歳。生活が苦しくなり、息子夫婦から出て行けと言われた」と答えた。2011年2月、平壌市郊外でキム・ドンチョル撮影(アジアプレス)。

<北朝鮮内部調査> 衝撃の実態…生死の境界に立つ老人たちは今 (1) 落穂ひろいや物乞いで暮らす貧困高齢者たち 「年寄りの姿がめっきり減りました」

北朝鮮政府はほぼ何の手当もせず高齢者を見放してしまっている。困窮する庶民の中には老親の世話を放棄したり、虐待したりするケースが後を絶たないという。2月末から3月中旬にかけて、両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)市に住む取材協力者2人から、高齢者が過去数年間に直面した状況について具体的な話を聞いた。(カン・ジウォン/ジョン・ソンジュン)

◆ 機能を喪失した国の老人福祉

Q4 高齢者の困窮に政府はどう対応しているのか? 養老年金制度のようなものはあるのか?

A氏 我が国では年金とは言わず補助金と呼んでいる。1990年代は月35~70ウォン程度を支給していたが、2000年代に入ってから5000ウォンに上がった。功労者や勲章を受けた人の中には2万ウォンを受け取る人もいるが普通は5000~7000ウォンだ。しかし、それさえも出たり出なかったりで、月末になると年寄りが洞事務所(町役場)に集まって「なぜ補助金を出さないのか」と文句を言うので、幹部らは苦労している。

B氏 勤めていた職場や勤続年数によって異なるが、月に5000ウォン程度の補助金を受け取るが、それでは何もできない。形式だけだ。

※2024年3月中旬時点で1000朝鮮ウォンは約16円、白米1キロは6000ウォンほど。つまり月の補助金は白米1キロが買えるかどうかの水準である。

(参考写真)駅に停車中の列車の乗客に、水を買ってくれるよう懇願する老婆。横の少年は老婆の邪魔をして、自分から水を買うよう客に求めている。2013年9月咸鏡南道で撮影アジアプレス

◆親を見捨てる困窮した家族

Q5 国の支援が無いのであれば家族の負担が大きいはずだが、親を養うことに対する社会の認識はどうか?

A氏 まともに親の面倒を見ようという人は、どこにもいない。たいていの場合、子供たちも暮らしが厳しいので、互いに親の面倒を避けようとする。また親があちこちに移動するのも「居住退去」の問題があってややこしいので、同じ所に留まる傾向がある。

※居住移転の自由がない北朝鮮では、住処を移すには長くて複雑な手続きが必要である。

B氏 農村に住む子供がいる場合は、(親は)ほとんど農村に行く。最近は取り締まりが厳しく、「バッタ商売」(路上商売)すらできないので、年寄りは市内ではやることがないのだ。多くの年寄りが焚きもの拾いに外を出歩いている。便所に捨ててあるチリ紙を火付け用に拾い集めたりもしている。そんなことしかできることがないのだ。

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