<予告編 動画>
ウクライナ南部、オデーサ市内の文化施設で「実録 マリウポリの20日間」(原題は「20 Days in Mariupol」)が2日間にわたり、無償で上映され、市民ら約100人が鑑賞した。(オデーサ/玉本英子・アジアプレス)
「実録 マリウポリの20日間」は、ウクライナ人のムスティスラフ・チェルノフ監督によるドキュメンタリー映画。
2022年2月24日、ウクライナに侵攻したロシア軍。東部の町マリウポリは、ロシア軍の激しい砲撃にさらされ、包囲下の町に残ったジャーナリストたちは取材を続けた。映画は包囲からジャーナリストらが町を脱出するまでの20日間の記録映像だ。
マリウポリにとどまるジャーナリストたちは、市民に目を向ける。ロシア軍の砲撃で建物は破壊され、地下避難所に逃げ込んだ女児が「死にたくない」と涙を浮かべる。
病院では血まみれの負傷者が次々と運ばれ、医薬品が足りないなか医師は手術を続ける。病院攻撃の犠牲者をロシア当局者は「フェイク映像」と切り捨てる。映像をめぐるプロパガンダも繰り返された。戦闘で罪なき市民が犠牲となったのは、事実である。
映像はまた、過酷な状況下で心が疲弊していく市民の様子も映し出す。取材したジャーナリストは脱出を果たすが、一部の住民は町にとどまったままとなった。
1分間の黙とうの後、上映が始まり、スクリーンに映る町の惨状や苦悩する市民の姿に、観客らは涙を浮かべていた。戦時下にあるウクライナで、この映画が上映される意味は重い。
上映会の主催者のエフヘン・ドヴォルスキーさん(39歳)は言う。 「ウクライナ人は、この映画を観る心の準備はまだできていない。戦争によって私たち全員が負った傷は何年も残り続ける。それでもいつか、この映画を改めて観ることができる日がきてほしい」
共同主催者のアンナ・シェスタロヴァさん(41歳)は、「この映画を通して、私たちは決して諦めないという思いにつながれば」と話した。
映画を観たライサさん(62歳)は、侵攻後にいったん国外に避難したが、息子が兵士になったこともあり、家族で支えようとウクライナに帰還した。 「平和を願うばかり。私もどうやって今起きていることを伝えるべきか、考えています」
映画はマリウポリの「20日間」の記録だ。ウクライナの人びとにとって、マリウポリで起きたことは、ブチャ、バフムト、アウディーイウカでの悲劇であり、いまも攻撃下に暮らす自分たちの町、犠牲となっている家族、友人たちのことでもある。「20日間」は始まりにすぎず、まだずっと続くのだ。
オデーサでは、上映があった21日夜、ロシア軍の自爆ドローンが飛来し、発電施設が損傷を受け、停電となった地区もある。侵攻から3年目を迎えた今も、ウクライナでは同じ光景が各地で起きている。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・
【実録 マリウポリの20日間】
南東部の港湾都市マリウポリで、フロントライン、PBS、AP通信のジャーナリストらが包囲下の市民の姿を記録したドキュメンタリー映画。今年のアカデミー賞、長編ドキュメンタリー賞を受賞した。取材を続けたAP通信記者たちのマリウポリ報道はピュリッツァー賞(公益部門、ニュース速報写真部門)にも選ばれた。原題は「20 Days in Mariupol 」