◆国際標準に約40年遅れ「条約違反」も放置

国が逃げ続けている除去業者の許認可制や測定による濃度管理の実施は、1986年に採択(1989年発効)された世界保健機関(ILO)の石綿条約で位置づけられた“国際標準”である。じつは当時日本は条約を“骨抜き”にするため画策した。秘密指定解除された文書などを調べると、許認可制などに「行政上の負担が大きい」と徹底反対し、採択直前に演説までしたほどだ。

その結果、日本では上記の規定への対応がされず約20年間放置された。2005年にようやく批准したが、実際にはいずれの規定も導入されず、条約違反の状態が20年近く続いている。

日本の規制が国際的に「周回遅れ」なのは明らかだ。それも1周どころか何周も遅れている情けない状況なのである。なにしろ40年近く前に採択され、20年近く前に批准した国際条約すらいまだに無視し続けているのだ。

そもそも測定による石綿ばく露の管理は、石綿使用を推進(現在ではクリソタイル(白石綿)は管理可能すれば安全と主張)する国際団体でさえ必要性を認めているほどである。どれほど日本の規制が国際的に常識外れなのかこの1点でも明らかである。

また作業時の濃度管理ではなく、石綿が漏えいしていないとアリバイ的に示すための測定でしかないうえ、除去業者が測定を委託するためデータ改ざんが横行している。だからこそ「通告調査」ですら、改ざんできない環境下では石綿が外部飛散する事故が頻発する。

これでは今後も作業者や現場周辺の人びとの石綿ばく露が継続し、被害が拡大していくことになりかねない。

あげくに石綿を含む成形板などの切断などの作業では集じん機付き電動工具の使用で湿潤不要とする規制緩和がされる始末だ。石綿ばく露を実行可能な限り低くすることを義務づけ、より規制を強めている世界的な動きと逆行している。

吹き付け石綿が使用された可能性のある建物の解体ピークが目前に迫るなか、約40年前に定められた国際標準すら導入しない現状では労働者や周辺の人びとは守れない。国は危機感を持って取り組むべきだ。

【関連資料】環境省調査から算出した各年度ごとのアスベスト漏えい率

 

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