◆出産は暮らしに深刻な打撃を与える
結婚したとしても出産を決意するのは簡単なことではない。
協力者Aは「男性が家族を養うことができない状況なので、女性がお金を稼がなければならない」と話し、女性が出産することは家計に深刻な打撃を与えるという。つまり、庶民にとって出産は生存に関わる問題となっており、女性たちはリスクを心配せざるを得ないのだ。
収入減だけではない。子育て費用の増加も出産を避ける傾向を助長している。協力者たちは、子どもを学校に通わせようとしても、人民軍や各種建設に対する支援事業と称して、手袋から肌着、毛糸のマフラーなど、様々な「供出負担」を学校で強いられる。そのために子どもを学校に通わせられない家庭があるほど深刻だという。
「最近はお金がないと(学校に)通わせることすら難しい状況です。 1月も学校の(暖房用の)薪代として、1人当たり3万ウォンずつ徴収されました。薪を持って来いというけれど、それはすなわちお金と同じです。学校に持って行く負担は、ひと月に2~5万ウォンが普通です」(協力者B)。
※2024年3月末現在、白米1キロは北朝鮮のお金で6500ウォン程度。北朝鮮の1000ウォンは日本円で約1600円。
◆石頭の夫に内緒で避妊する女性たち
少なくない北朝鮮男性の思考は、社会変化についていけていない。家父長制的な考え方が依然として残っている。避妊や中絶についても、責任感や自覚がないと協力者の女性たちは口を揃える
「ここの男たちはまだ避妊なんてよくわかっていない。ほとんどの男は、女が中絶手術をしようが関心もなくて面倒を見るということもありません」(協力者B)。
「まだなんの思慮もなく『息子が欲しい』などと言う石頭の男性がいますが、妻たちは妊娠を避けるために夫に隠れて(避妊用の)リングを入れるんです」(協力者A)。
女性が感じている出産や育児の負担に対する国家と男性は“時代遅れ”との認識は、北朝鮮で少子化が進む現実を理解する上で重要な要素である。
深刻な少子化の進行に対して、当局はどのように対応しているのだろうか。次回に報告する。( 続く 3 >>> )
※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。
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