◆ 没収した畑を耕作させるため「農村離脱者」を帰農させる

また、当局は新たに農場に帰属させた土地で営農させるため、「農村縁故者」=農村離脱者を調査して、農村に帰農させる作業を始めたという。

北朝鮮では、協同農場の人員を確保するため、農村からの人の流出を厳しく統制してきた。農民身分に生まれた人々は、本人と子どもから子々孫々に至るまで、農村を離れることができない制度になっている。事実上の現代版の身分制である。

だが、農村の遅れた環境に加え、農民は北朝鮮でもっとも貧しい最下層の暮らしを強いられてきたため、農民にとっては、何とか農村を抜け出すことが夢なのである。そのためには、軍に入隊して将校になったり、女性の場合は都市に嫁いだりする方法がある。

しかし、農村を離れて都市住民になったからといって安心することはできない。彼らには一生「農村縁故者」というレッテルが貼られているためだ。当局で、このような人々を捜し出して、再び農村に送る作業が始まったということわけだ。

「ひとつの農場に、普通2~3の分組が追加で作られるそうです。(地方政府の)労働課で農村に縁故のある人を探し出し、(強制的に)帰農させているそうです」

※「分組」とは、協同農場で農業をする最小単位をいう。10名程度で構成される。

◆機関や企業に営農資材の支援を割り当て

北朝鮮当局は、毎年のように「農業第一主義」のスローガンを掲げ、農村支援キャンペーンを繰り広げている。ところが、今年はその強度が例年よりはるかに強い、と取材協力者は言う。

「普通、堆肥の生産は2月で終わるのですが、今年は4月まで継続するそうです。労働者たちは、年初からずっと農場に動員されているので、まるで農民になったようなものです」

特に注目されるのは、当局が、機関と企業に対して周辺の協同農場を割り当て、不足する肥料や農薬、営農設備を準備するよう要求していることだ。

「私が知っているある工場は、周辺のある農場を分担したのですが、営農資材の支援をするとして、製管職場なのにすきを作らされています」

金正恩政権が、個人の耕作を厳しく統制するために「小土地」を一掃して協同農場に帰属させているのは、食糧の生産と流通を国が独占することが狙いだと見られる。

※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。

 

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