スピードスケート五輪メダリストだった橋本聖子参院議員。自民党のHPより。

安倍派(清和政策研究会)の政治資金パーティの売り上げから2018年以降だけで2057万円の高額のキックバックを受け取っていた橋本聖子参院議員が、3月に出席した政治倫理審査会(以下、政倫審)で説明していた内容と、政治資金収支報告書(以下、収支報告書)の記載内容が大きく食い違っていることが分かった。(フリージャーナリスト・鈴木祐太

◆裏金でなく借入金として処理と主張するが

東京新聞によると、橋本議員は3月14日に開催された参議院の政倫審において、代表を務める「自民党北海道参議院比例区第83支部」(以下「第83支部」)の収支について次のように説明している。

「(派閥事務局の意向で)領収書を発行できなかったために寄付金収入としては計上できなかった。担当者は困惑の末、私個人からの借入金収入として収支報告に計上した上で、政治活動に適正に使った」

この発言通りだと、キックバックを受けた金の処理は、「第83支部」が橋本議員個人から借入した金として処理されていなければ辻褄が合わない。

橋本議員は18年に202万円、自身の選挙があった19年には1566万円、20年には289万円を安倍派からキックバックしてもらっている。21年、22年は、東京五輪組織委員会会長を失言で退任にした森喜朗氏の後を継いだ際に自民党を離党。安倍派も離脱したため、キックバックは受け取っていない。

橋本議員の「第83支部」の2019年分の収支報告書。1566万円のキックバックがあったのに、橋本議員個人からの借入金は1350万円しかない。差額216万はどこへ? なお「石崎聖子」は、橋本議員の戸籍上の名前。

◆何もかもが不可解だらけ

ところがである。橋本議員が代表を務める「第83支部」の18年の収支報告書には、借入金の記載が見つからないのである。

1566万円のキックバックを受けた19年は、「第83支部」は1350万円を橋本議員本人からの借入金として処理している。しかし、残りの216万円は借入金として処理されておらず、いったいどこにいったのか、政倫審で説明していない。

また「第83支部」は20年に橋本議員から1200万円を借り入れているが、この年のキックバック分289万円を超えているので、一見問題がないように思えるが、なぜ289万円の借り入れにせず、1200万円にしたのか疑問が残る。

それだけでなく、「第83支部」は今年3月1日に、橋本議員からのこの借入金1200万円を493万円に減額訂正している。安倍派からのキックバック分を寄付に訂正するのであれば911万円を減額して289万円にしなければ辻褄が合わない。不可解だ。

◆「裏金ではない」の根拠とも合わない不可解

橋本議員は政倫審において次のように説明している。

「私の政治活動に関する収入と支出は全て収支報告に計上されており報道されているようないわゆる裏金ではないということが結論であろうかと存じます」

裏金でないと強弁しているが、橋本議員からの借入金を安倍派からの寄付金と訂正処理すれば済むはずだ。ところが、収支報告書の訂正はこれだけではなく、不可解だらけなのだ。

橋本議員が代表を務める「ジャパニーズドリーム」という資金管理団体がある。「ジャパニーズドリーム」は橋本議員の「第83支部」に、「金銭以外のものによる寄付相当分」として、21年22年ともに6300万円ずつが計上していたが、それが今年3月1日、両年ともに4243万円に減額する訂正がなされている。

その差額は年間2057万円、2年分で4114万円になる。この「金銭以外のものによる寄付相当分」とは、いったい何を指すのか。収支報告書からはまったくわからない。そもそも21年22年とも安倍派から離脱しているので訂正する必要はないはずだ。

安倍派が収支報告書を訂正したのは、今年1月31日だった。しかし、「第83支部」及び「ジャパニーズドリーム」が訂正したのは3月1日だ。

まったく不可解だらけである。橋本議員の事務所に質問状を送ったが、期限までに回答はなかった。

◆政倫審での説明か報告書のどちらかが虚偽

一連の自民党派閥のパーティ券問題を刑事告発し続けている上脇博之神戸学院大学教授は次のように指摘する。

「国権の最高機関を構成する参議院の政倫審において自ら説明した内容が、実際の収支報告書の訂正内容とこれほど食い違い整合性がないのは、あまりにも無責任です。政倫審での説明が真実なら、報告書の訂正は規正法違反の虚偽記入罪になってしまいますし、訂正が真実なら、政倫審での説明が虚偽だったことになります。にもかかわらず、記者の質問に真摯に回答しないというのは、主権者の代表者としての自覚がない。即刻辞職すべきです」

◆東京五輪汚職事件の説明はどこへ行った?

政倫審での説明と実際の収支報告書が、まったく食い違っているのであるから、橋本議員はあらためて説明する責任がある。また、橋本議員は東京五輪組織委員会会長だったにもかかわらず、一連の東京五輪汚職事件でも説明責任を果たしていない。政治家としての資質に疑問符が付くと言わざるを得ない。

 

■ 鈴木祐太(すずきゆうた)
1981年香川県で生まれ。岡山、大阪で育つ。大学在学中から貧困状態にある子どもたち、特に被差別部落や在日外国人の子どもたちへの支援に関わり、小学校講師、派遣社員などを経てジャーナリズム活動を始める。フロントラインプレス所属。

 

 

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