◆待遇のいい部隊へ…飛び交う賄賂
入隊を巡って賄賂が飛び交うのは年中行事のようになっている。子どもを、なんとかして服務が楽な部隊に行かせようとする親たちが、配置を決定する「軍事動員部」の人間に金を渡すのだ。3~4月は、「軍事動員部」の関係者にとっては稼ぎ時なのである。
「『軍事動員部』の関係者たちは、請託に来る親たちと会うのに余念がなくて、なかなか話が聞けないほどでした。親たちに聞くと、警務部 (憲兵)、安全局(警察)、保衛部(秘密警察)のような待遇の良い部隊に入れるには、中国のお金で1000~3000元くらいの賄賂が必要だということでした。平壌の部隊やミサイル部隊などは、食事の供給が良いし、金正恩が直接視察に来ることがあって、接見したら出世する可能性があるので人気があるそうです」
※中国1000元は日本円で約2万1000円。
◆旅費工面できず息子・娘の入隊を見送りに行けない貧困家庭も
北部地域に住む別の取材協力者は、「招募」の調査過程で、裕福な家庭とそうでない家庭では、軍入隊時から雲泥の格差があることを実感したという。
地方の入隊者は、集合場所の大都市に赴かなければならない。別れを惜しむ両親が一緒に行って、配属先に出発するまで数日を一緒に過ごすのが普通だ。だが宿泊費を準備できず、貧しい家庭では親が見送りに来られないケースがとても増えたという。
協力者は、入隊者や親を自宅に泊めてお金を稼いでいる知人に会って聞いた話を、次のように伝えてきた。
「お金がなくて親が(集合場所まで)ついて来られず、息子が1人で来て8000ウォンを払ったそうです。また農村から一人で来て泊って行った子がいたが、(集合地までの)自分の旅費を工面するために、父親が自転車を売ったそうです。かわいそうなので、お金をもらうのが申し訳ないくらいだったと言っていました」
※1000北朝鮮ウォンは約17円。
朝鮮人民軍の新兵には、既に入隊前から極端な格差があるのである。
※アジアプレスは北朝鮮の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。