(参考写真)平安南道の農場の畑で働く農民。2010年6月に撮影キム・ドンチョル(アジアプレス)

北朝鮮北東部の咸鏡北道(ハムギョンプクド)のある協同農場で4月初旬、食糧配給量の約束を当局が守らないことに農民らが抗議する騒ぎが起こり、安全部(警察)が出動する事態になっていたことが分かった。現地に住むアジアプレスの取材協力者が伝えてきた。(チョン・ソンジュン/カン・ジウォン

取材協力者によると、騒動が発生したA協同農場は、農場員数が500人程度の咸鏡北道では中規模の農場。食糧配給の量が事前の約束より少ないことに農民たちの不満が噴出、行政機関である農村管理委員会に押しかけて抗議する騒ぎに発展した。

◆農場員に対する配給制度導入の背景

労働者が配給を受けるのとは異なり、農民は1年の農作業が終わる秋に、翌1年間の生活を維持できる食糧を一度に受けとっていた。分配制度である。

しかし、1990年代に配給制度がほぼ崩壊したように、農村での分配制度も事実上機能しなくなった。生産量に比べて、軍糧米をはじめとする各種のノルマに収穫物を優先的に供出していく農業構造が原因だ。近年はほとんどの農民が1年を暮らしていける十分な分配を受け取ることが難しくなっていた。

そのため、農村では毎年のように春先になると、分配された食糧を消費し尽くしてして栄養失調になり、農場に出勤できない「絶糧世帯」が現れるようになった。その結果、農繁期なのに人手が不足し、さらに生産に悪影響を及ぼすという悪循環が続いていた。

そこで2019年頃に導入されたのが、農場配給制度である。これは簡単に言えば、秋の収穫後に支給する分配分から、翌年の農繁期(4~6月)用の3カ月分の食糧を農場が保管し、春に配給形式で各世帯に供給する制度である。

一度に分配を行うと、春が来る前に食糧を食べ尽くしたり売ったりしてしまうため、少なくとも農繁期に食べられずに欠勤することを防ぐために考案された方法だと見られる。

ただ、このような変化が全国的なものなのか、それとも北部地域の一部の農場に限ったものなのかは、アジアプレスは確認できていない。

畑でトウモロコシを収穫中の農場員たち。2023年9月下旬に平安北道の朔州郡を中国側から撮影(アジアプレス)

◆3カ月分の食糧から1カ月分が消え農民たち憤怒

A農場では、4月上旬に配給が実施される過程で問題が発生した。3カ月分を支給するという約束だったのに2カ月分しか出なかったのだ。協力者は次のように説明する。

「農民たちは農場に預けている食糧があると考えていたのだが、それが2カ月分しか支給されなかった。しかもトウモロコシの保管がうまくいかず、カビが生えていたのを見て、農民たちは怒りを爆発させた。

1日2食で我慢して4月の配給を待っていたのに、約束が守られず農民たちは怒ったのだ。それで何人かが農場管理委員会に出向き、『我われの食糧を寄こせ』と叫んで騒いだため、安全部(警察)まで出動した」

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