去る3月末、北朝鮮北部の両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)市で、腹を空かせた高齢者と貧困住民が役場や労働党庁舎などに食糧を求めて殺到する騒ぎがあり、当局が警察を投入して解散させる事態になっていたことが分かった。現地に住む取材協力者が伝えてきた。 (チョン・ソンジュン / カン・ジウォン)
◆発端は1人のおばあさんの抗議だった
恵山市に住む取材協力者によると、騒動が発生したのは3月29日。事件の発端は、生活に苦しむあるお婆さんの行動だったという。取材協力者は次のように説明する。
「そのお婆さんは、洞事務所(町役場に相当)を訪ねて行って、『(金正恩)元帥様が、人民が餓死するまで食糧配給を出さないはずがない。中間で幹部たちが横取りするので食糧がなくなったのではないか。今、私には食べる物がないのだ。すぐ食糧をよこしなさい』、そう言ったそうだ」
そのお婆さんは60代で、「元帥様」まで持ち出して堂々と食糧を要求したので、洞事務所では事を穏便に済ませようと、食糧を少し渡して帰らせた。彼女の行動は間髪置かずに周辺に伝わり、事態は急展開を見せることになる。
◆警察は機動隊まで動員して収拾図る
「食べ物がもらえるらしいという噂を聞きつけた市内の老人たちは、洞事務所や、労働党と人民委員会(地方政府)の庁舎、糧穀販売所に続々と集まり、食糧を寄こせと叫ぶ騒ぎになった。さらに、食べるのに困っている貧しい人たちまで押しかけて、あちこちが騒乱のようになった。安全局の機動隊が出動して解散させたが、当局は老人たちの家族を呼び出して、家に連れて帰らせていた」
協力者は事の経緯をこのように説明する。
事態が一段落した後、当局は騒動の発端となったお婆さんを、食糧がもらえるというデマを広めた「老害者」とみなし捜索したという。処罰が下されたのかはわからない。