収穫後の畑で座り込んで話す農村女性と国境警備に動員された男性。予備軍組織の「労農赤衛隊」の一員の農場員とみられる。2023年9月下旬に平安北道の朔州郡を中国側から撮影(アジアプレス)

春窮期を迎えた農村の困窮家庭に対し、国が非常食糧の支給を始めている。しかし、秋の収穫後に利息を付けて返済することが条件になっていることが、咸鏡北道(ハムギョンプクド)のある農場の調査で分かった。「トンチュ」(金主の意)と呼ばれる都市の富裕層と農村の幹部が結託し、困窮した農民に違法に食糧や金を高利で貸す行為が横行していたが、政府はそれを取り締まると同時に、「代行」するという策に出たわけだ。理由と目的は何なのだろうか。(チョン・ソンジュン/カン・ジウォン

◆6カ月で30%の利子、なぜ国が高利貸しをするのか?

北朝鮮では、食べ物も現金も底をついた危機的な家のことを「絶糧世帯」という。「ポリコゲ」と呼ばれる春窮期に増える(これについては後述する)。春は農繁期なのだが、どこの協同農場でも、栄養失調で出勤ができない農場員が毎年出るため、当局は頭を痛めてきた。

咸鏡北道の取材協力者が4月後半にA農場を調査したところ、「絶糧世帯」に対し国が非常食糧を支給したことが分かった。A農場は農場員数500人ほどでトウモロコシを主作物とする中規模農場だ。協力者が説明する。

「国からA農場に中国産のコメが運ばれてきたのだが、秋の収穫時に利子を付けて配給から差し引く形で支給することになった。1キロもらうと1.3キロ返すのが条件だ。個人から借りるより(利子が)低いので、我も我もと、皆が受け取ろうとしたが、量が足りないため、『絶糧世帯』だけに1週間分のコメが支給された」

約6カ月後30%増しで返済というのは、年利にすれば60%という「高利」貸しである。国は一方で、個人が非合法に行う高利貸し行為を「非社会主義的行為」だと厳しく非難してきた。農村で慣習的に行われてきた春の高利貸しの背景を説明したい。

大きなリュックを背負って田舎道を歩く農村女性。2021年7月撮影 アジアプレス

◆困窮の農民に付けこんで暴利の高利貸し

北朝鮮の住民にとって春は苦しい季節である。特に農村では、前年秋の収穫分を消費し尽くし、麦やジャガイモもまだ熟さぬ春の端境期は「ポリコゲ」と呼ばれ、飢えに悩まされる人が毎年のように出る。

過去、政権は「絶糧世帯」の発生に効果的な対策を立てず、事実上放置してきた。農民らは食糧に余裕のある農村幹部や都市の金持ちから、利息を付けて秋の収穫時に返済する約束で食糧や金を借りるようになった。農村における個人間の貸し借りは、一時的な苦境を凌ぐ機能を果たしていたのである。

しかし問題は、その利子率が高すぎることだ。通常、春に1キロの食糧を借りると、秋に2キロ返すのが相場であった。年利にすれば100%。農村の幹部や都市部の金持ちは大きな利益を得る一方、食糧を借りた農民の中には、家庭と生活が破壊される結果をもたらこともあった。秋になっても返済できない人の中には、家まで売らねばならないもケースもある。このため、金正恩政権は、5年程前から高利貸しを「現代版の地主の復活」と批判していた。

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