◆同時進行で金正恩の権威発揚作業
「統一消し」と同時に進行しているのが、金正恩時代を強調する宣伝だとA氏は言う。
「金日成、金正日のスローガンが金正恩のものに入れ替わり、新しい社会主義、金正恩式社会主義を建設するという会議が行われている。学習や講演の際にも、首領様(金日成)、将軍様(金正日)の遺訓、業績などという言葉は一切出てこなくなった。金正恩は金日成、金正日を超える偉人の中の偉人だ、偉大な元帥様の国に住んでいる誇りと矜持を持って革命と課業遂行の先頭に立とうと宣伝している」
◆「韓国消し」で現代自動車のタクシーを廃車か
咸鏡北道(ハムギョンプクド)に居住するB氏も、5月末に「韓国」や「統一」という言葉も消し去る作業が本格化していると伝えてきた。
B氏は、韓国の製品や商標、社名など、韓国の存在を示すあらゆるものに当局が敏感に反応するようになったという。羅先(ラソン)の運送業事情に詳しい知人から聞いた話として、B氏は次のように伝えてきた。
「羅先でタクシーとして使用されていた現代車5台がすべて廃車になったそうだ。今年、韓国を敵国だと宣言した後、すぐに現代車から会社の標識を剥がし、車内の韓国語や英語の表記を消し、さらにタクシーとしての運行を中止させたという。運行を中止した後は、タイヤ、部品などの装備をすべて取り外して売り払い、最終的に廃車にしたと言っていた」
この情報が事実であれば、該当の現代の車両は、国連による対北朝鮮制裁が本格化した2017年より前に北朝鮮に入った可能性が高い。
◆統一無理でも交流だけでも続けてほしかった
「統一消し」「韓国消し」という大変化の動きに、住民たちは大いに当惑しているとA氏は語る。
「突然の動きなので、韓国と戦争するつもりなのか、あるいは立派にやっている韓国に吸収されるのを恐れているためなのだろうか。私にもよく分からない。それでも韓国は同じ民族であり、経済的にもうまくいっている国なので、統一が無理だとしても、せめて交流だけでも正常化されたらいいのに」
金正恩政権が先代の業績を否定し消去するという新政策は、住民たちに、さらなる孤立と閉鎖、対立の新時代を予測させるものと映っているようだ。
アジアプレスは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。