■ これまでロシア軍と対峙してきた経験のなかで、ロシア兵の士気についてどう思いますか? 例えばロシア軍には自軍の逃亡兵を背後から撃つ「督戦隊」があると報じられています。

【ゲーリク戦車長】
それはロシア兵それぞれで異なると思います。プロパガンダを信じ、ここにナチスがいる、などと奮起して戦いに来る兵士もいれば、金目当てで来た兵士もいる。動員されて前線に放り込まれて突撃させられる兵士もいる。投降するロシア兵は目にしたことがありますが、「督戦隊」は自分の現場では見たことはありません。

操縦手がオイルをチェックや機器の整備をしていた。(2024年2月ドネツク州・撮影:玉本英子)

しかし、いずれにせよ、テレビでよくやっていたような「ロシア兵は士気が低く、戦い方すら知らない」というのは、実際には違います。決して過小評価してはなりません。彼らは戦い方をちゃんと知っているし、我々もそんななかで戦っている。どんな相手であろうと、我々は戦い続けなければなりません。

戦車長席キューポラ部分。(2024年2月ドネツク州・撮影:玉本英子)

■ ウクライナ軍はアヴディーイウカから撤退しましたが、攻勢を強めるロシア軍と対峙し、前線の状況を好転させるためには何が必要と感じますか?

【ゲーリク戦車長】
我々のどの現場でも、様々なレベルで弾薬・砲弾が不足している現実があります。西側の武器・装備が絶対に必要です。なければ結果は違ったものとなるでしょう。

ドイツ国防省によると、これまでにウクライナに供与されたレオパルト2A6戦車は18両。その一部がこの旅団に配備された。ポルトガルも3両ウクライナに供与。(2024年2月ドネツク州・撮影:坂本卓)

■ 侵攻から2年が経ちました。負傷したり、亡くなった友人もいると思います。この2年はあなたにとってどんな意味を持ちますか? 家族への思いも聞かせてください。

【ゲーリク戦車長】
この2年間の戦争、それをひとことで表現などできません。それほどたくさんの思いが去来します。家族は中部の町に暮らしています。母と3人の兄弟、祖父母がいて、自分を応援してくれるのが心の支えであり、励みになっています。

「兵士たちの後ろには、それぞれ家族や家があり、その思いが我々を強くしている」。 (2024年2月ドネツク州・撮影:玉本英子)
家族の支えがゲーリク戦車長の心の励みという。(2024年2月ドネツク州・撮影:玉本英子)

自分が軍に入隊したのは侵攻の前だったので、この本格的な戦争が始まってからは、家族にとっては気が気でなかったことでしょう。作戦任務中は家族との通信は制限されますが、電話で話せる環境になったときは、大丈夫だから安心して、と言うようにしています。心配をかけてしまうので。兵士たちの後ろには、それぞれ家族や家があり、その思いが、我々を強くしているのです。

第21独立機械化旅団のほかにレオパルト2Aが配備されているのは第47独立機械化旅団などがあり、昨年6月の反転攻勢でも投入された。(2024年2月ドネツク州・撮影:玉本英子)
昨年6月、反転攻勢が始まった直後に、マラ・トクマチカ近郊でロシア軍にレオパルトと米ブラッドレー戦闘車が撃破されている。ロシア軍は西側供与の兵器を破壊したことを宣伝。(2023年6月・ロシア国防省映像)

◆いつ終わるか分からない戦い

「戦車の中を見せてあげるよ」と、乗員たちが私を砲塔にひっぱりあげてくれた。戦車長の指揮席をぐるりと取り囲むように並んだ高度な管制システムやいくつもの計器。それは、いかに効率よく正確に敵を殲滅し、自分が生き残るかが考え抜かれた機器と装備である。「人類の知性」とは何なのか考えてしまった。

戦車内部の撮影は認められなかったが、中の機器を見ることはできた。内部の操作パネルの表記はドイツ語のままだった。 (2024年2月ドネツク州・撮影:坂本卓)

ロシア軍の侵攻から現在に至るまで、何人ものウクライナ兵を取材してきた。どの兵士も、「ロシア軍は手ごわく強力で、兵器・装備・弾薬の物量でも圧倒している」と口をそろえた。

勝利を信じつつも、ロシア軍との戦いを楽観視する者はいなかった。それでも戦わなければ、故郷は占領され、いったん占領されると二度と取り戻すことはできないという思いで兵士たちは戦っていた。

第21独立機械化旅団のレオパルト2A6のうち、すでに一部が破壊または損傷。交戦地帯テルニでは残ったままの車両もあり、ロシア軍側も鹵獲しようとしているという。(2024年2月ドネツク州・撮影:玉本英子)
レオパルトがロシア軍に鹵獲されれば徹底分析されるだけではない。「これがウクライナの背後のNATO、ナチスだ、と宣伝に使われる可能性もある」と軍事ジャーナリストは指摘。(2024年2月・撮影:玉本英子)

日本では、「ロシア軍はボロボロ」というイメージを抱く人がいるかもしれないが、実際にはそんなことはない。いまウクライナ軍は各戦線の維持に必死で、一部では後退局面にある。兵力不足を補うため、動員年齢が引き下げられることになり、徴兵逃れも起きている。他方、ロシア軍の側は、捨て駒のように兵士が前線に投入され、犠牲は果てしない。

今夏にもロシア軍の攻勢があるとの見方も出ている。反転攻勢で多大な損失を出してようやく奪還した地域が、再びロシア軍の手に落ちることもありうる。いつ終わるか分からない戦いのなか、兵士たちは前線に立っている。

ロシア軍の侵攻から3年目を迎えたウクライナ。双方に多大な犠牲を出しながら、戦闘は続いている。(2024年2月ドネツク州・撮影:玉本英子)
第21独立機械化旅団が展開するウクライナ東部ドネツク州リマン。(地図作成:アジアプレス)

 

 

 

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