■ これまでロシア軍と対峙してきた経験のなかで、ロシア兵の士気についてどう思いますか? 例えばロシア軍には自軍の逃亡兵を背後から撃つ「督戦隊」があると報じられています。
【ゲーリク戦車長】
それはロシア兵それぞれで異なると思います。プロパガンダを信じ、ここにナチスがいる、などと奮起して戦いに来る兵士もいれば、金目当てで来た兵士もいる。動員されて前線に放り込まれて突撃させられる兵士もいる。投降するロシア兵は目にしたことがありますが、「督戦隊」は自分の現場では見たことはありません。
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しかし、いずれにせよ、テレビでよくやっていたような「ロシア兵は士気が低く、戦い方すら知らない」というのは、実際には違います。決して過小評価してはなりません。彼らは戦い方をちゃんと知っているし、我々もそんななかで戦っている。どんな相手であろうと、我々は戦い続けなければなりません。
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■ ウクライナ軍はアヴディーイウカから撤退しましたが、攻勢を強めるロシア軍と対峙し、前線の状況を好転させるためには何が必要と感じますか?
【ゲーリク戦車長】
我々のどの現場でも、様々なレベルで弾薬・砲弾が不足している現実があります。西側の武器・装備が絶対に必要です。なければ結果は違ったものとなるでしょう。
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■ 侵攻から2年が経ちました。負傷したり、亡くなった友人もいると思います。この2年はあなたにとってどんな意味を持ちますか? 家族への思いも聞かせてください。
【ゲーリク戦車長】
この2年間の戦争、それをひとことで表現などできません。それほどたくさんの思いが去来します。家族は中部の町に暮らしています。母と3人の兄弟、祖父母がいて、自分を応援してくれるのが心の支えであり、励みになっています。
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自分が軍に入隊したのは侵攻の前だったので、この本格的な戦争が始まってからは、家族にとっては気が気でなかったことでしょう。作戦任務中は家族との通信は制限されますが、電話で話せる環境になったときは、大丈夫だから安心して、と言うようにしています。心配をかけてしまうので。兵士たちの後ろには、それぞれ家族や家があり、その思いが、我々を強くしているのです。
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◆いつ終わるか分からない戦い
「戦車の中を見せてあげるよ」と、乗員たちが私を砲塔にひっぱりあげてくれた。戦車長の指揮席をぐるりと取り囲むように並んだ高度な管制システムやいくつもの計器。それは、いかに効率よく正確に敵を殲滅し、自分が生き残るかが考え抜かれた機器と装備である。「人類の知性」とは何なのか考えてしまった。
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ロシア軍の侵攻から現在に至るまで、何人ものウクライナ兵を取材してきた。どの兵士も、「ロシア軍は手ごわく強力で、兵器・装備・弾薬の物量でも圧倒している」と口をそろえた。
勝利を信じつつも、ロシア軍との戦いを楽観視する者はいなかった。それでも戦わなければ、故郷は占領され、いったん占領されると二度と取り戻すことはできないという思いで兵士たちは戦っていた。
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日本では、「ロシア軍はボロボロ」というイメージを抱く人がいるかもしれないが、実際にはそんなことはない。いまウクライナ軍は各戦線の維持に必死で、一部では後退局面にある。兵力不足を補うため、動員年齢が引き下げられることになり、徴兵逃れも起きている。他方、ロシア軍の側は、捨て駒のように兵士が前線に投入され、犠牲は果てしない。
今夏にもロシア軍の攻勢があるとの見方も出ている。反転攻勢で多大な損失を出してようやく奪還した地域が、再びロシア軍の手に落ちることもありうる。いつ終わるか分からない戦いのなか、兵士たちは前線に立っている。
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