2010年6月に撮影された23歳の浮浪女性の姿。両親が死亡した後、畑の雑草をウサギの飼料として売ることで生命をつないでいると語った。この映像は日韓欧米で大きな反響を呼んだ。撮影キム・ドンチョル(アジアプレス)

北朝鮮で携帯電話を使用する人が増えている。だがここにきて、当局が携帯電話端末での写真や動画撮影の取締まりを強化していることが分かった。外部には知られたくない撮影物が、住民間で拡散されることや海外へ流出することを防ぐための措置と見られる。(チョン·ソンジュン/カン·ジウォン

◆火災、重要施設、値札、コチェビ…写真所持しているだけで集中検閲

北朝鮮における携帯電話使用者数は、統計によって差があるが、400万~600万人程度と推算される。移動通信の運用が本格化した2008年以降、着実に増え続けてきた。

今、住民の多くは「知能型携帯電話機(スマートフォン)」を使用している。写真、動画の撮影はもちろん、国内のイントラネット(限られた範囲でアクセスできる内部ネットワーク)に接続する機能などを備えている。当局はこうした機能を通じて、北朝鮮内部の様子や情報が国内外に拡散されることを強く問題視しているようだ。

7月上旬、両江道(リャンガンド)に住む協力者は、「携帯電話での撮影の取締まりが非常に厳しくなっている」と伝えてきた。

「以前から、撮影物の取締まりはよくあり、(携帯電話の)押収捜索ではまず写真から検閲していた。最近は、以前にも増して動画や写真を問題視することが増え、取締まりが厳しくなった。確かな情報なのか分からないが、先月プーチンが平壌を訪問した際、携帯電話で1号写真(金正恩氏ら一族を含む写真のこと)を撮った人がいて、大きな問題になったという噂がある」

協力者は6月29日、「女性同盟(朝鮮社会主義女性同盟)」の会議で、安全局(警察)の人間が次のように警告した伝えた。

「記念写真だとしても、国の重要施設の前で撮影したものや、火事などの事件事故、逮捕場面、社会的な騒動などを撮影した動画を保管したり、流布したりすれば、法的処罰を受けることもある。携帯電話を持っている人は注意しなければならない、と通告された」

この協力者は、「携帯電話を持っていても、写真一枚さえ、まともに撮ることができない。写真に軍事施設や工場企業所、商店の値札、『コチェビ(浮浪者)』などが写っていれば、外部に送るためかと疑われ、集中的に検閲を受ける」と、厳しい取り締まりに対し不満を吐露した。

北朝鮮のスマートフォン。「知能型携帯電話機」と呼ばれ、イントラネットのみに接続できる。2020年、アジアプレスが入手した。

◆趣味やスポーツの動画の送信・共有も徹底取り締まり

協力者によると、ある住民が「糾察隊」の取締まり風景を撮影していたところ、携帯電話を奪い取られて壊された出来事が最近あったという。「社会的に問題になりそうな場面の撮影に対しては特に強圧的だ」と協力者は述べた。

※糾察隊:社会の風紀の維持と「非社会主義的」行為の取り締まりを目的とする民間人で構成された統制組織。

それだけではない。日常の趣味や運動の様子を撮影、編集して共有することまでが取締まりの対象になっているという。

「若者同士で格闘技やテコンドーをして遊ぶ様子を撮影して編集し、USBで共有したり、携帯電話で送信したりすることも徹底的に取り締まるようになった。学校と青年同盟でも教育を強化せよと、当局が要求している」

★新着記事