2022年度から開始された一定規模以上の改修・解体工事におけるアスベスト(石綿)の事前調査結果を都道府県などに報告する制度で初めて統計データが公表され、同年度に報告された工事は約62万件に上った。ところが実際には本来必要な報告数を大幅に下回っている可能性がある。(井部正之)

環境省が初公表したアスベストの事前調査結果報告数を示す資料の一部

◆報告対象は実際には200万件超か

2020年の石綿規制強化で目玉の1つとされたのが、建物などの改修・解体時における石綿調査結果について一定規模以上の場合に報告する制度の創設だ。労働安全衛生法(安衛法)石綿障害予防規則(石綿則)や大気汚染防止法(大防法)では工事の規模にかかわらず、あらかじめ石綿の調査を実施することが義務づけられているが、対象工事の場合、2022年度から石綿の有無にかかわらず、元請け業者が調査結果の概要を都道府県などに報告することが義務づけられた。

報告対象は建築物の場合、延べ床面積80平方メートル以上の解体または請負金額100万円以上の改修、工作物の場合、請負金額100万円以上の改修・解体である。報告先は都道府県などの自治体や所轄の労働基準監督署で、専用のウェブサイトから簡単に手続き可能だ。

3月15日の環境省発表によれば、制度を開始した2022年度に都道府県などに報告された工事は計61万8246件に上った。内訳は建築物57万1242件(92.4%)、工作物5万9213件(9.6%)。

ところがこの報告件数は本来必要な数よりも大幅に少ない可能性がある。

国土交通省の「建築物リフォーム・リニューアル調査報告」によれば、2022年度の改修工事は計1011万8393件(住宅740万4131件、非住宅271万4262件)。そのうち報告対象の100万円以上の改修工事は191万3302件(住宅87万2236件、非住宅104万1066件)と推計されている。

解体工事の報告対象数は不明だが、建設リサイクル法(建リ法)で80平方メートル以上の解体工事に届け出義務を課している。同省に確認したところ、同年度に届け出があった解体工事は19万9883件だった。

古い資料になるが、国交省と環境省が合同開催した有識者会議による検証で、2008年12月のとりまとめの際に公表された参考資料によれば、「固定資産の価格等の概要調査(総務省)」や「建築着工統計(国交省)」などから建リ法の対象工事のうち「届出・通知がなされているのは、建築物の解体工事で約70%」と推計(2005年度データ)。その後検証がなく、最近の届け出率は不明だが、仮にこの届け出率70%で試算すると、2022年度の対象工事数は28万5547件。

これらを合計した建築物の改修・解体で報告対象工事数は219万8849件ということになる。ただし工作物については100万円以上の改修・解体が報告対象だが、統計がないため不明だ。

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