◆違法工事だらけ、どう変えるか

そもそも法改正の検討時に両省とも国交省調査を活用して、報告対象の件数や調査者の必要数を割り出すなどの制度設計しているのだ。いまになってそのデータに根拠もなくケチをつけるのはいかがなものか。それでは立法事実を否定していることになり、法改正の根拠がなくなりかねない。

何度か確認して、少なくとも明らかにデータがおかしいと指摘できる材料は持ち合わせていないことを環境省は認めた。

同省は「今後も(国交省)統計はチェックしていきたい。周知などの活動に今後とも取り組んでいきたい」(環境管理課)などと答えた。

厚労省からは2週間経っても連絡がなかった。8月8日に改めて尋ねると、「想定された件数とのかい離について、現時点でコメントはできない。報告が確実にされるように周知していかなければいけないと思っております」(化学物質対策課)と回答した。

国交省調査は建築業の許可を持つ5000社に対し、業種や規模に応じてアンケートを送って得た回答に係数を掛けて推計しているものだ(2022年度の有効回答数:住宅1621社、非住宅1123社、計2744社)。調査計画として対象業種や算出方法など詳細が公表されており、「総受注額の推計値の許容誤差率を信頼区間95%で10%」としている。

また建リ法の施行状況について、国交省は他省庁の資料も活用して届け出対象の件数を推計。その結果を国交・環境両省の合同会議が認めている。その試算の善し悪しはべつにしても、少なくとも公的なデータに基づいて未報告件数を把握しようと努めている。これが当然であろう。

厚労・環境両省は文句があるなら独自にきちんと推計のうえで公表すべきだ。対象工事数の推計もしないのであれば、施策の評価ができず、行政対応として不適正といわざるを得ない。独自調査が無理なら、制度設計で借用している以上、国交省データに基づく未報告数の推計を正式に採用し、その前提で評価・対応する必要があるのではないか。

少なくとも現状入手可能なデータからは、報告対象の約4分の3が違法工事の可能性があるという深刻な状況が浮かぶ。小規模改修を中心にいまも石綿の事前調査をしない事例がめずらしくない状況は現場からも相次ぐ。

7月下旬に衆議院第2議員会館で開催された学習会でも戸建て解体・改修にたずさわる事業者から「現実問題として、とても憤りを感じている。昨(2023)年10月から(有資格者による)石綿含有事前調査をしなさいといわれて、うちはバカ正直にやっております。本当に小さい会社ですけど、私が調査者の資格を必死になって取ってやっているんですが、実際大手企業以外はほぼやってない状態が現実です」と怒りの告発があった。

また小規模工事ほど、「(石綿)対策費用が目立ってしまい施主の理解が得られにくい」という状況があり、「お施主様に理解していただけないケースが多々ある」「相見積りの現場等で他社が(石綿調査・対策)費用を計上していればお客様も理解してくれるが、そうでない場合には理解してもらいにくい」として、“正直者がバカをみる”状況が続く。

建築基準法による耐火構造などの指定や旧日本工業(現在は日本産業)規格(JIS)により国が建材への石綿使用を推し進めてきた以上、吹き付け石綿だけでなく、成形板なども含めて石綿調査・対策費用の補助が必要なのではないか。

成形板なども含めた石綿の事前調査が義務づけられて来年7月で20年。それでもこの惨状なのだ。周知は重要だが、お題目のように「周知に努める」というだけでは現場は良くならず、被害も減らない。

 

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