◆電子化で記録が失われる懸念も

弁護団のコメントで指摘されたように、国は公文書の電子化を進めている。2019年3月の総理大臣決定の基本方針や2021年7月の有識者会議の答申で、国の行政文書は2026年度をめどに本格的な電子的管理に移行することになっているのだ。

ところが2023年10月に公表された各省庁における行政文書の電子化状況で、全48行政機関における平均電子化率は15.4%と低い。なかでも厚労省は1.8%と「きわめて低調」で、まったく対応できていない。

そのため同省は今年度、同省や全国の労働基準監督署において書面で保管されている石綿関連の労災手続きや立ち入り検査などの記録について電子化するためのマニュアルを作成する委託事業を実施する。5月30日に公告され、入札は6月25日。事業は7月16日から2025年3月末までの予定。

同省から入手したマニュアル作成事業の要綱によれば、「石綿関連文書もそのほとんどが紙で保存されている。文書の劣化や紛失の回避、保管・管理に要する経費の削減、将来開示請求等がなされた場合の文書の特定(検索)の容易さといった業務効率化という観点からも、これらの紙で保存されている石綿関連文書については中長期的な計画のもと電子化していく必要がある」とされる。

この事業では、同省が保有する石綿関連文書のうち「指定する文書」だけをスキャナーで読み取ってPDF文書にする。そのうえで光学的文字認識(OCR)処理により文字データ化して検索可能な電子ファイルデータとして整理。同省の文書決裁システム「EASY」に保存する。今回の委託事業は、全国の労働局や監督署で石綿関連文書を電子化するために「最適なスキャニング方法やその留意点などを示した作業手順書」を作成するというものだ。

仕様書によれば、請け負った事業者は単なるマニュアル作成だけでなく、秘密保持契約のうえで実際に同省が指示する労働局や監督署を訪問するなどして対象の行政文書ファイルを調査し、リストを作成。実際に事業者側に文書を引き渡して電子化などの作業をしてもらうことになっている。

そうした実務で問題になるのは、(1)電子化対象の資料を決める段階で本来電子化されなければならない石綿関連文書が抜け落ちること、(2)電子化の作業でたとえば複数ページがくっついてしまって1枚の扱いでスキャンされてしまうなどの作業時に一部の文書が電子化から漏れてしまうこと、(3)上記の(1)や(2)に気づかず、最終的に紙資料を廃棄すること──などが考えられる。OCR処理による文字認識が上手くいかず、それに気づかずに修正されないといった問題もあるが、データ自体が存在しているだけましのため、とりあえずは置いておく。

いずれにせよ結局のところ、これらの判断権限を持つのは各労働局長や監督署長である。いまだに石綿関連文書の誤廃棄が続いている現状から、同じことが繰り返されることが懸念される。

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