東アジアを覆っている今夏の熱波は、冷涼なはずの北朝鮮でも多くの人を苦しめている。第2の都市の咸鏡南道(ハムギョンナムド)の咸興(ハムン)市では、寝苦しさに耐えられなくなった大勢の住民が公設運動場などの屋外で寝ているという。北部地域に住む取材協力者が、咸興にいる親族から聞いた「酷暑の現状」を8月14日に伝えてきた。(石丸次郎/カン・ジウォン)
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◆運動場に板敷いて布団被る レンタル蚊帳も出現
韓国気象庁の統計によれば、1999~2020年の咸興の8月の平均最高気温は28.1度で、平均最低気温は19.9度。咸興は海沿いにあり、夏も過ごしやすい気候だと言える。ところが今夏は猛暑が続いている。米国の気象情報サイト「The Weather Channel (ザ・ウェザーチャンネル)」によると、咸鏡南道は8月以降、最高気温がほぼ連日30度超を記録し、35度という日もあった。
北朝鮮では、特権層や新興富裕層を除いてエアコンがある家はほとんどなく、経済的に余裕がある家でもせいぜいが扇風機だ。それも電気事情が悪くて使用できず、咸興では寝苦しい夜を外で過ごそうという人が続出しているという。取材協力者は次のように伝える。
「午後4時頃になると老人たちが出てきて、公設運動場の日陰の涼しい所にゴザを広げて場所取りを始める。そこで暑さを避けて出てきた人たちが板を敷いて布団を被って寝るのだが、老人たちに1000ウォンの場所代を払わなければならない。さらに1000ウォンを追加すれば蚊帳を貸してくれるそうだ。無職者やコチェビ(浮浪者)なども外で寝ている」
※北朝鮮の1000ウォンは日本円で約16円。
蚊帳はガーゼ布で作ったもので、高さ40センチほどの三角形の一人用だ。需要が多いという。
「場所取りをして小銭を稼いでいるのは、皆生活が苦しい老人たちで、水やパン、ビールも販売しているそうだ」
運動場で寝始める人が出始めた当初は、警察が取り締まりをしていたが、暑くて大勢の人が出てくるようになると、それも緩んだという。
◆日中勤務を朝晩に変更
両江道(リャンガンド)の恵山(ヘサン)市は、白頭山麓に位置する都市だ。韓国気象庁の統計によれば、1999~2020年の恵山市の8月の平均最高気温は27.0℃、平均最低気温は15.4℃。しかし、「The Weather Channel」によれば、涼しいはずの両江道でも8月に入ってか最高気温30度超の日が続出している。
恵山に居住する取材協力者が、やはり14日に伝えてきたところによると、恵山は庭がある平屋住宅が多いため、咸興のように猛暑の中で運動場に出て寝ることはなく、自宅の庭や屋根の上や倉庫に寝る場所を作って寝苦しさを凌いでいるそうだ。
問題なのは夜よりも日中の暑さなのだろう。協力者は暑さ対策について次のように説明した。
「職場では午前は5時から10時まで、午後は4時から7時までと勤務時間を変更した。人民委員会(地方政府)でも、昼間の暑さがひどい場合には、10時から3時までは休憩し、早朝と夜間に仕事をする場合もある。警察などの取締り統制機関でも、日中の気温が高い時間帯は巡回をせず、場所を決めて見張り勤務をしている」
なお、恵山市では7月末の集中豪雨によって停電になったが現在は復旧している。電気は、工業線(生産用電力)には1日4~5時間、住民線に1~2時間程度、恵山市の中心部では3時間程度供給されているという。当局は節電のため、工業線での電力供給地域で、冷蔵設備、製氷機などで氷を作って販売することを集中的に取り締まっているという。
※北朝鮮では、用途によって電気供給線が分かれている。「工業線」とは党や行政機関、工場や企業所、協同農場向けの電気供給専用線であり、「住民線」とは一般家庭向けの供給線である。
※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。