◆不適正施工求める発注仕様

さらに市は今回の入札で不適正作業を求めているのだからたまらない。

今回の除去工事では吹き付け石綿の除去だけでなく、天井に設置されたコンクリートのはりの周囲に施工された化粧モルタルもあわせて撤去することになっている。ところが市は分析調査をしていなかった。

市教委は「モルタルは、セメントと砂と水を混ぜて作るもので、アスベストは含有していません」(同)と主張。分析調査していないことを認めた。

市の設計図書など入札資料で事前調査の実施を求めているが、224平方メートルというモルタル撤去作業について石綿対策の記載はない。

またモルタルの撤去作業は石綿除去工事後とされ、現場の隔離などを撤去したうえでの施工とされる。工事設計書にもモルタルの分析調査費用や除去時の石綿対策費用の位置づけはなく、入札において見積もられていないことがわかる。

市教委に確認したところ、石綿ばく露防止対策などは不要と説明した。つまり、モルタルは石綿が含まれず分析不要として事前調査の対象から除外して施工させるということだ。

しかし左官用モルタル混和材にしばしば石綿が含まれることは20年前の2004年7月に厚生労働省が発表して注意喚起をしていることだ。いわば常識である。

実際に建設アスベスト訴訟で原告として国や建材メーカーと闘った、石綿肺などをわずらう左官業の元労働者複数名から話を聞いたことがあるが、戸建てや大規模建築物を問わず、モルタル塗りの際には「(石綿含有の)モルタル混和材を入れていた」と口をそろえた。入れると塗りの伸びが良くなるなど施工性が格段に上がるうえ、危険性を知らなかったため、使わない理由はなかったという。

2020年の石綿規制改正(2021年4月施行)で、石綿の有無を調べる事前調査は建築物などの「すべての材料」について定められた手順で実施することを規定するなど厳格化。木材や金属、石、ガラスのみで構成されているなど、明らかに石綿を含まないもの以外はすべて手順どおりに調査しなければならない。

よって明らかに石綿が含まれる可能性のある建材であるモルタルについて、石綿調査不要と判断したのは明らかに間違っている。石綿の事前調査や対策義務は事業者にあるが、市の入札では調査対象から除外させるのはことが想定されており、不適正な発注仕様といわざるを得ない。またその費用を負担しない形になっており、市が違法工事を強要していることになる。

本当に必要な場合、事業者側は契約変更を求めることができるが、そうした費用が必要と考える真面目な事業者はそもそも入札で落ちてしまう。当然ながら本来なら費用に計上されていなければおかしい。

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