鹿児島県出水市内にある吹き付け材が使用された工場でアスベスト(石綿)の事前調査をせずに改修工事をさせる露骨な不適正工事が起きていた。9月13日、川内労働基準監督署が労働安全衛生法(安衛法)違反の疑いで福岡市内の30代男性を鹿児島地方検察庁川内支部に書類送検した。(井部正之)
◆吹き付け材の分析せず着工
発表によれば、送検されたのは大塚商会(福岡市南区。法人でなく屋号)の代表者である個人事業主の男性(30代)。容疑は5月16日から24日にまでに同県出水市にある建物において、あらかじめ石綿の使用の有無を調査することが安衛法の石綿障害予防規則(石綿則)で定められているにもかかわらず、それをおこたって改修に着工させた安衛法違反の疑い。
現場は鉄骨造の工場(規模など非公表)で、はりに耐火材として吹き付け材が使用されていたが、分析もせず、石綿の調査結果報告書も作成しないまま改修作業が始まっていたと同監督署は説明する。当然ながら、事前調査結果の報告もされていなかった。
実際に石綿を含有する建材があったというが、吹き付け材なのか別の建材なのか、同監督署は「捜査内容のためお答えできない」と話す。のちに県への取材で吹き付け材や成形板に石綿が含まれていたことが判明した。着工していたのは内装などの改修で吹き付け材には触っていなかったという。
同監督署によれば、男性は事前調査していなかったことを認めている。一方、男性が規制を認識していたかどうかは回答が得られなかった。また石綿調査をする場合に義務づけられている「建築物石綿含有建材調査者」講習の修了状況も「資格の有無はお答えできない」(同監督署)。
ただし現場では「労働者の健康被害を防止する措置は一定程度とられていた」と同監督署は明かし、それが散水ではないと認めた。着工していたのが吹き付け材でないことから、「一定程度」の実施であれば、けい酸カルシウム板第1種がある場合に必要になる「隔離養生」はせずに労働者に防じんマスクなどの着用はさせていた。あるいは湿潤はせずに防じんマスクを着用して成形板などをバール破砕していたといったところだろうか。
同監督署は詳細を明かさないが、いずれにせよ何らかのばく露防止措置を講じていたと考えられ、石綿含有やばく露の可能性を認識していたのはまず間違いなさそうだ。
今回の容疑である事前調査および分析調査の義務(石綿則第3条第1項)違反による健康障害を防止するため「事業者の講ずべき措置等」の安衛法(第22条第1項)違反は、起訴され、有罪になった場合、6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金である。
同監督署は「本件のように、石綿の使用の有無について事前に調査を行わずに当該建築物の改修作業を行うと、当該労働者が石綿にばく露する可能性等を完全に否定できない状況であるものの、労働者が石綿作業に従事したことを明らかにすることが難しくなるため、適正な作業に係る行政指導が困難となります」と説明。
そうした改修・解体作業に関連して、「労働者らが石綿による疾患にり患し、労災請求を行ったとしても、迅速適正な給付が困難となる可能性もあります。したがって、労働基準監督署としては、厳しく追及することとしています」と表明している。