北朝鮮では、7月末に北部一帯を襲った集中豪雨の復旧作業が現在も続いている。金正恩政権は10月10日の労働党創建記念日までの作業完了を命じており、地方の労働党幹部は強い圧力を受けて、昼夜違わず現場を離れられない過酷な日々を送っているようだ。下級幹部の中には、職務怠慢で強制労働の処罰を受けた者もいるという。(石丸次郎/カン・ジウォン)
<北朝鮮内部>北東部でも豪雨で人命被害 金正恩氏の叱責恐れ幹部らパニック 「早くも責任のなすり合い始まった」
◆住民にも監視される幹部たち
「幹部たちが、復旧作業の現場で労働者のように働いている。『腹の出た幹部』はもう見かけないよ」
両江道(リャンガンド)に住む取材協力者A氏は、「幹部の異変」について8月末にこう伝えてきた。「腹の出た幹部」とは、ふんぞり返って指示だけして働かない幹部のことをいう。
A氏が続ける。
「幹部たちは復旧現場から離れられないでいる。労働党の中央党の指示で、地方の幹部たちが現場で責任を持って仕事をしているか、一挙手一投足を調査して報告することになっているそうだ。
そのため、両江道の党幹部が、抜き打ちで復旧現場に出向いて来て、下級の幹部たちがちゃんと仕事をしているのか、ずっと調査している。動員された労働者や住民たちからも話しを聞いている」
◆幹部らは処罰に戦々恐々
処罰を恐れる幹部たちの萎縮ぶりが目に浮かぶようだが、このような幹部たちの緊張は8月初めからずっと続いているという。
7月末に集中豪雨に見舞われた新義州を視察した金正恩氏は、職務怠慢と初期対応の不備から「容認できない人命被害まで出た」「厳しく処罰する」と幹部たちを批判した。朝鮮中央通信は、社会安全相(警察庁長官に相当)を更迭したとも伝えた。戦々恐々の幹部たちは率先して現場作業に取り組んでいるというわけだ。
両江道では、洪水で家を失った住民の一部が、金正恩氏の指示で平壌に避難しているが、「この避難民をすべて党創建記念日までに新築した家に入居させろというのが政権の要求だ」とA氏は言う。幹部たちには強いプレッシャーとなっているだろう。
◆酒飲んだと強制労働させられる幹部も
韓国の国家情報院は9月4日、水害発生の責任を問われ、20~30人の幹部が銃殺された可能性があると発表した。その中には慈江道(チャガンド)の党トップの姜奉勳(カン・ボンフン)責任書記が含まれているという。
咸鏡北道(ハムギョンブクト)茂山(ムサン)郡の取材協力者B氏にこの情報を伝え、現状について尋ねたところ、次のように答えた。
「他の地域のことはよくわからないし、(復旧作業に関連して)幹部を銃殺したという情報は知らない。だが、茂山鉱山では職務怠慢とみなされた下級幹部が『革命化』の処罰を受けた」
「革命化」とは、組織の規律に違反した幹部に対する懲罰の一つで、一定期間、現場労働を強いられる。
「茂山鉱山の精鉱職場の細胞書記(末端の党組織の責任者)と職場長が、復旧動員の期間中に酒を飲んで任務をきちんと遂行せず、労働者を罵倒するようなことがあったとして、『革命化』2~3カ月の処罰を受けた。一般労働者と一緒に復旧工事の現場に行かされている」
◆ロシア産の小麦粉を配給
一方、肝心の茂山地区の復旧状況はどうなのだろうか?
「他の工事を全部中断させて、水害復旧に総動員しているが、10月10日までに終わらせるのは難しいと思う。茂山から 会寧(フェリョン)方面に向かう道路には、橋が崩れてまだ車が通れない所がある。臨時橋を作れと指示があったが、川に砂利を敷いただけだ。復旧作業に動員された人の無断離脱を徹底的に取り締まっている」
B氏によれば、茂山鉱山から動員された労働者には、8月にロシア産の小麦粉が一人当たり15キロ、他の工場でも10キロ以上が配給されたという。
「ロシアから食糧支援があったそうだ。おかげで飢えることはないが、副食や煮炊き用の薪も要るし、誰もがぎりぎりの暮らしだ」
なお、配給された小麦粉がロシアから無償支援されたものなのか、アジアプレスでは確認できていない。
※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。