福岡県行橋市の仲津小学校(同市大字道場寺)では体育館でもっとも危険性が高いとされる吹き付けアスベスト(石綿)とみられる「吸音材」が約20年にわたって見落とされていただけでなく、館内で飛散していた。ところが8月下旬、市は「健康リスクはきわめて低い」と“安全宣言”した。実際には2つのウソにより保護者らが知るべき石綿リスクが隠されてしまっている状況だ。(井部正之)

行橋市の仲津小学校体育館のようす。危険性の高い吹き付け石綿とみられる天井材にボールの当たった跡などが残っていることがわかる(行橋市提供)

◆館内の空気「静穏」測定で石綿検出か

吹き付け材から石綿が検出されたのは市内にある仲津小学校(同市大字道場寺)の体育館。市教育委員会によれば、天井の「吸音材」から基準(重量の0.1%)超の危険性の高い石綿を検出した。体育館は1970年竣工。「吸音材」は厚さ数センチあり、クリソタイル(白石綿)だけでなく、発がん性がより高いアモサイト(茶石綿)を含むと市教委は認める。定量分析まではしていないというが、目視定量で5%超から50%の含有率と報告されており、石綿を高濃度に含む吹き付け石綿とみられる。

2005年7月に吹き付け材からの石綿飛散防止など管理を義務づけた労働安全衛生法(安衛法)石綿障害予防規則(石綿則)が施行。ところが市は翌2006年に市有施設の吹き付け材を採取して分析した際にも同小学校体育館の吹き付け材を見落とし、分析しなかった。その後何度も規制強化され、そのたびに文部科学省が自治体にも通知しているのだが市は分析をおこたり、空気中の石綿濃度測定などの管理もしてこなかった。

今回分析されたのは、2025年度以降の改修工事に向けた設計委託で位置づけられた発注前検査だった。石綿則で管理義務が位置づけられて20年近くになってようやく分析され、石綿を検出。危険性のより高い茶石綿まで使用されていたにもかかわらず、市は法で定められた管理義務を無視してきたことになる。

7月中旬の石綿検出後、市教委は「劣化状況からも飛散が想定される」と体育館の使用を禁止。除去工事に向け、検討を開始した。並行して市は8月9日に館内5か所で空気環境を測定。8月23日、体育館内の3カ所で石綿を検出し、もっとも高い空気1リットルあたり0.26本の石綿繊維数濃度だった。残る2カ所はいずれも同0.088本。

ところが市教委は「本結果で確認された数値については、目安となる数値を大幅に下回る結果となり、健康リスクは極めて低いものであると考えております」と安全宣言した。

市が「目安」として示したのは、世界保健機関(WHO)が1986年に公表した「環境保健クライテリア」という報告だ。市教委による発表は〈アスベストに環境基準はありませんが、※WHO(世界保健機関)の環境保健クライテリア(1986)によりますと、「世界の都市部の一般環境中の石綿濃度は、1リットル当たり1~10本程度であり、この程度であれば健康リスクは検出できないほど低い」と記載されております〉と説明。9月9日の市議会でも市教委の教育部長が同様の答弁をしている。

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