◆準備作業で早くも法違反か
市教委との面会時、新たな疑惑が明らかにされた。説明会を求めた保護者が不適正作業を目撃したとして、こう証言したのである。
「1カ月ほど前、子どもを迎えに(小学校敷地内にある)学童保育に行ったとき、体育館で3~4人がおそらく(石綿除去で必要になる)足場の搬入のためにスロープや階段の壁の設置作業をしているのに気づきました。びっくりしたんですが、館内の空気に石綿が含まれていることがわかっているのに、なにも(飛散防止を)せずに学童保育の建物側の扉を開け放ってやっていた。(もっとも厳しい対策が必要な)レベル1の吹き付け石綿の除去にかかわる作業ですから、自分たちの感覚では専用の防じんマスクや防護服が必要ですが、館内を出入りしていた作業者は誰もやって(使って)いませんでした」
写真などの証拠は示されなかったものの、この保護者は建設業の仕事をしており、福建労の組合員。「勉強中」というが、石綿を扱う作業で責任者になる「石綿作業主任者」に加えて、建物調査を担う「建築物石綿含有建材調査者」の講習を修了した有資格者であり、規制の認識は確かだった。
建物などに吹き付け石綿があり、劣化などで飛散し、労働者がばく露するおそれがある場合、石綿の除去などの措置を講じる義務が労働安全衛生法(安衛法)石綿障害予防規則(石綿則)第10条で規定。臨時でそうした場所で働かせる場合、「労働者に呼吸用保護具及び作業衣又は保護衣を使用させなければならない」と事業者に義務づけられている(同第2項)。
仲津小学校の体育館内には劣化した吹き付け石綿があり、空気中に石綿の飛散が確認されている。その場合、吹き付け石綿の除去作業だけでなく、準備の作業においても上記のばく露防止措置を講じなければならない。念の為、行橋労働基準監督署(安全衛生課)に確認したが、同じ見解であった。
保護者の指摘が事実であれば、除去作業そのものでなく、その準備段階で石綿則違反の可能性がある不適正な作業だったということになる。
市教委の課長は扉を開け放ったままの作業や防護措置の不備は否定せず、「細心の注意を払ってやっています」とあいまいに答えた。
具体的な飛散・ばく露防止対策や測定による実証の状況を聞くと、両課長はなにも答えなかった。
筆者が見たかぎりでも、小学校の周囲に吹き付け石綿の除去工事についての掲示が見当たらなかった。市教委は「きちんと掲示されています」というが、場所を確認すると、校庭内の現場近くで、掲示も非常に小さなものだった。
大気汚染防止法(大防法)では「公衆に見やすいように掲示しなければならない」と定める。校庭は学校敷地内であり、外部の人は勝手に立ち入ることはできないことから、「公衆」が見ることができる掲示になっておらず、大防法(第18条の15第5項)違反の可能性がある。
20日に元請け業者に連絡し不適正作業について聞くと、「ぜんぶ(市と)話し合って規定どおりやってますんで。これで失礼します」と電話を切られた。
翌日に市教委に確認しようと連絡したが、「個別の取材はお断りさせていただきます」と拒否された。
市の発注仕様書を確認したが記載が見当たらなかったことから、準備作業における石綿飛散・ばく露防止措置は指示していない可能性がある。その場合、発注者が元請け業者に対して「施工方法、工期、工事費」などについて、法などの規定の「遵守を妨げるおそれのある条件を付さないように配慮しなければならない」と大防法(第18条の16)や石綿則(第9条)で規定が履行できていないことになる。配慮義務のため罰則はないものの、不適正作業をさせた道義的責任はあろう。