◆20年近く実質法違反か
市は新たに吹き付け材から石綿を検出した3校のうち、現在設備改修工事中の南武庫之荘中学校は石綿の除去工事を追加。年内に完了する予定。上坂部小学校と小田北中学校については12月に吹き付け材を囲い込む工事を実施し、夏休みなどに除去する方針という。
ところが筆者が市教委に作業方法を尋ねたところ、もっとも厳しい対策が求められる吹き付け石綿などの囲い込み工事にもかかわらず、法で定められた隔離養生や負圧除じんなしに実施する計画だった。
違法工事ではないかと指摘したところ、壁に固定具を設置し、その上に仕切りを入れるだけなので「吹き付け材には直接触らないので(問題ない)。環境部局にも確認している」(施設課)とそうした対策は不要との見解を示した。
しかし2020年の大気汚染防止法(大防法)改正後の同11月の同省通知では〈吹付け石綿の囲い込み若しくは石綿含有断熱材等の囲い込み等(これらの建築材料の切断、破砕等を伴うものに限る。)を行う場合又は吹付け石綿の封じ込めを行う場合は、作業時に石綿が飛散するおそれが大きいため、当該特定建築材料の囲い込み等を行う場所を他の場所から隔離し、囲い込み等を行う間、当該隔離した場所において、JISZ8122に定めるHEPAフィルタを付けた集じん・排気装置を使用するものとした(新法第18条の19第2号、新規則第16条の15)〉と記載。
続けて、〈「囲い込み」とは、特定建築材料の周囲を板状の材料等で覆って密閉すること、「封じ込め」とは、特定建築材料の表面又は内部に石綿飛散防止剤を吹付け、又は浸透させ、固着・固定化させることをいう。また、「切断、破砕等」には、切断又は破砕のほか、作業時に石綿の飛散のおそれがある場合の振動も含まれる〉と振動がある場合には、「隔離養生+負圧除じん」が必要との判断を示す。
環境・厚労両省が2021年3月に作成(2024年2月改正)した「建築物等の解体等に係る石綿ばく露防止及び石綿飛散漏えい防止対策徹底マニュアル」でも〈一般に、囲い込み又は封じ込める場合は、除去する場合と比べ石綿の飛散の程度は大きくないと考えられるが、アンカーボルトを打ち込む場合や特定建築材料の劣化・損傷の状態によっては、除去と同程度に特定粉じんの飛散するおそれがある〉(p26)と補足している。ちなみに吹き付け石綿などの除去作業と同等の対策のため、届け出も必要である。
今回のような問題で、さらに違法性のある対応をするのは問題ではないかと指摘したところ、知らなかったらしく、「確認して対応します」(同)と答えた。
あわや違法工事、である。あるいは振動がないとして強行するのだろうか。
囲い込み工事や今後の除去工事についてだが、日本の規制は国際標準から数十年単位で遅れており、漏えい事故も多い。囲い込みや除去後に児童・生徒らがすぐその場所を使うことを考えると、徹底した清掃や完了検査が必要だが、大防法施行規則に「清掃」は位置づけがあるものの、具体的な手法やどこまで徹底した清掃なのかといったことは規定がない。マニュアルでもほとんど記載がないのが実態だ。これについてもやはり第三者の経験豊富な専門家に作業計画の妥当性、施工監理、漏えい監視、完了検査まで徹底した対応を依頼すべきではないか。
労働安全衛生法(安衛法)石綿障害予防規則(石綿則)の第10条には、建物などに吹き付け石綿があり、劣化などで飛散し、石綿にばく露する可能性がある場合、除去などの措置を求めている。この規定は2005年7月の施行当時からある。翌2006年改正で、そこで労働者を働かせる場合にばく露防止措置を講じるよう追加された。
これは吹き付け石綿のある部屋でばく露することがないように建物の管理義務を定めたものだが、10月の下坂部小学校とあわせ、小中学校4校でこの管理義務に違反してきた可能性がある。ところが市は発表・説明もせず、ばく露させた可能性のある人びとに謝罪もしていない。こうした対応は論外だ。徹底した調査のうえで、保護者や過去にばく露した可能性のある卒業生なども対象に説明会を開くなどしてきちんと謝罪・説明すべきだ。
今回の一連の対応は、法違反の可能性のある不適正な施設管理にともなうものだ。それをふまえて、万全の対策を講じる必要がある。2005年6月末にクボタ旧神崎工場周辺で、住民に石綿ばく露によって発生する中皮腫被害が相次いでいたことが明らかになったクボタショックから19年。住民の被害者はすでに約400人に上り、そのなかには市職員や市議会議員も含む。その“震源地”である尼崎市が石綿の健康リスクを“ねつ造”して、安全宣言したあげく、対策工事で法違反の可能性のある計画をしているのでは話にならない。
当時被害者の掘り起こしに尽力した「アスベスト患者と家族の会連絡会」世話人の古川和子さんは「本当に石綿の問題が風化しているのだなと驚きました。震源地の尼崎がそんな対応では困る。いまもクボタの被害者が出続けているのに、尼崎市が石綿リスクを軽視することがあってはならない」と批判する。
「We will not scatter asbestos.(私たちはアスベストを飛散させない)」と市の公共施設における石綿含有建材「管理の手引き」に書かれた誓いともいうべきことばが空々しい。