◆あまりに少ない鉄筋…明らかな資材不足
――北朝鮮では、資材不足も深刻です。
今本:資材不足は、様々な場面で見て取れます。最初に指摘した型枠もそうですが、足場や(重さを支える)支保工などの仮設資材が全て木です。鋼(はがね)が一切使われていません。
木材が豊富なアジアでは、竹などを仮設資材に使うことは多いですが、それでもコンクリートの重量を支えるべき部分やしっかりと固定すべき部分など、要所では鉄などを使用します。
――建物に使われる鉄筋の量はどうでしょうか?
今本:鉄筋の量も非常に少ないです。建物の安全性を図る指標のひとつに「構造安全性」があります。これは、地震などの外部の力に対して耐えうるかを測る指標で、コンクリートの強度と鉄筋の量によって決まります。
柱に縦に通る鉄筋を「主筋」(②赤枠)と言いますが、写真で見ると、最低限の4本しかありません。日本では一般的に12~20本は使います。
この主筋を帯状に巻いている部分を「せん断補強筋」と言います。間隔を密にするほど耐震性が高まります。地震国の日本では、15センチ以下の間隔で巻くことが求められています。しかしここでは、横にいる作業員のヘルメットの大きさから推測すると約30センチの間隔でしょう。
また壁の中には、通常、縦横に最低20センチくらいの間隔で鉄筋が入っています。この写真(③)では縦の鉄筋が見えますが、1メートル以上も間隔が空いています。
◆関東大震災クラスでは全壊、安全に住めるのは10~15年
――総合すると、北朝鮮の建設水準はどう評価できますか?
今本:施工状況や工法を総合的に判断すると、日本の1920~40年代の施工状況に近いと思われます。約90年前の状況です。その時期に日本で建てられた鉄筋コンクリート造の5、6階建てアパートのコンクリートの強度を調査したことがあるのですが、近年建てられた同条件の建物のコンクリートの強度と比べると、3分の2から半分程度でした。
――具体的には、どのくらいの強度のイメージでしょうか?
今本:関東大震災クラスの地震が北朝鮮で起きた場合、当時の日本の建造物の被害と同じくらい、つまり、多くの建物が全壊するような被害が起きてもおかしくはないでしょう。
――北朝鮮は地震が非常に少ないです。その場合、建物はどのくらいもつのでしょうか?
今本:「構造安全性」と併せて、もう一つ重要な指標が「耐久性」です。「どのくらい安全に住めるか」と言い換えることもできます。今回見た北朝鮮のアパートの耐久性は、せいぜい10~15年と考えてもおかしくはないでしょう。
例えば、コンクリートの中の鉄筋が錆びて膨張し、コンクリートにひびが入って剥落すれば、それは安全に住める状況ではありません。脱型が非常に早い状況などを鑑みると、残念ながら長く安全に住める場所とは評価できません。(続く)
※建設現場の写真はいずれも平安北道新義州。2024年10月撮影アジアプレス。
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