ロシア派遣北朝鮮兵は何者か? 「暴風軍団」出身の記者が分析(1)「捕虜は極度の混乱状態のはず。本人と家族の人権に配慮を」
ロシアに派遣され戦死した北朝鮮兵士の遺留品から、朝鮮労働党への入党請願書が見つかった。これは、特別のはからいで緊急に入党を認める「火選入党」が提示されたためだと考えられる。だが、なぜ戦地での入党請願なのか? 金正恩政権の狙いは何なのか?(カン・ジウォン/整理:洪麻里)
◆北朝鮮で「入党」が格別の意味を持つ理由
そもそも、朝鮮労働党員になることは北朝鮮社会においてどのような意味を持つのだろうか。
大前提として、北朝鮮が厳格な階級社会であることを知る必要がある。階級によって職業選択と出世、居住地などにおいて、発展の可能性が大きく異なる。結婚も左右する。そして、北朝鮮の若者たちがより上の階級を目指す場合、欠かせない3つの必須条件がある。それは、朝鮮人民軍での服務を終えること、大学を卒業すること、そして入党することだ。
※アジアプレスの調査では、現在、男子の一般的な軍服務期間は8年、女子は5年である。
入党を果たすことは容易ではない。以前は軍隊を除隊すれば優先的に入党できる優遇措置があったが、最近では、除隊後の社会生活における態度を重視するようになった。労働党の政策に忠実か、普段の素行は悪くないかを見るのだ。党と指導者(金正恩氏)への忠誠心が問われ続けるわけだ。
普通、入党請願書は1年に2回提出する機会があるが、あらかじめ党組織が選抜した人だけが請願できる。その後、2年の「候補党員」としての期間を過ごし、審査を経てようやく党員資格が与えられる。
◆即座に入党が許可される「火選入党」
「火選入党」とは、こうした長いプロセスを飛び越えて、党組織から入党が許可される非常に特別なケースだ。戦時下や特殊功労が認められた場合のみ有効で、「火選入党」した党員は別格だと認識される。
入党請願書を所持していた兵士の年齢は不明だが、ロシアに派遣された兵士たちは、概ね18歳~24歳の若い世代が中心だと見られる。北朝鮮では、兵士に支給される金も物資もごくわずかだ。表彰休暇制度もなかなか活用できない。ロシアに派遣された兵士に与えられる参戦対価は、タバコや酒以外に大したものはないだろう。勲章やメダルをもらっても、実社会ではほとんど意味も価値も持たない。仮にロシア派遣兵士が、わすが20代前半で入党が約束されるとしたら、それは破格で望外の「褒美」になるのは間違いないはずだ。
※2014年当時、下士は月に150ウォン支給されていた。当時の北朝鮮10ウォンは0.08円。
◆チョン・グムリョン「死んでも革命の信念を捨てない…」
今回見つかった入党請願書には、「請願者 チョン・グムリョン」という名前で、次のように書かれていた。
「砕かれて粉々になっても白い光を失わない白い玉のように、焼かれても真っすぐさを失わない竹のように、死んでも革命の信念を捨てない思想と信念の最強者として強固に準備していくことを固く決意する」
党員になるということは、党と指導者に人生を捧げ、徹底して模範的に行動することを誓うことを意味する。それはロシアの戦地でも変わらない。つまり、他の兵士の模範になるよう、率先して前線に立つということを意味する。
北朝鮮兵の死傷者数はすでに、3000、4000人にも及ぶと推定されている。戦場に送り込まれるなど夢にも思っていなかった兵士たちは、見たこともない最新兵器によって仲間が次々と倒れる姿を見て、大きな衝撃と恐怖、混乱のただ中にいるだろう。厭戦気運が蔓延しているとしても無理はない。
北朝鮮当局は、兵士らの戦意を駆り立てるのに有効な、ほぼ唯一の価値ある対価として、「火選入党」という条件を提示したのではないか。筆者はそう見ている。
◆命と引き換えの党員証
だが兵士にとっては、「火選入党」は党員証と命を交換する選択になる可能性がある。戦場で仲間の死に直面しながら、入党請願書を作成するか否か。軍人たちの葛藤は、推し量るに余りある。
戦地に立つ兵士たちが戦う拠り所とするのが党員証だとすれば、戦闘意欲を鼓舞するどころか、大きな虚無感を招くのではないだろうか。