◆2人の捕虜は混乱状態のはず

映像では、「北朝鮮に帰りたいか?」という質問も投げかけられた。兵士Aは首を縦に振り、帰国の意思を示した。

他方、兵士Bは、「ウクライナの人はいい人ですか?」と尋ね、「ここ(ウクライナ)に住みたい」と答えた。「(北朝鮮に)帰れと言われたら帰るけれど…」とも話した。

この意思表示にについてカン記者は、「言葉通りに受け取るのではなく、彼らの置かれた状況と心理状態を考慮しなければならない」とし、次の2点を強調する。

まずは、17歳で入隊し、外部との接触を遮断された軍生活を送り、世の中を全く知らない若い兵士だということだ。もう一点は、戦地に行くことさえも知らされず送り込まれ、初めての実戦を経験し、仲間が次々に死亡するのを目の当たりにした直後だということ。自分の置かれた状況も、尋問で目の前にいる人間が敵か味方かも分からない非常に混乱した精神状態での回答である。

◆公開映像は北朝鮮当局も見ている

また、カン記者は「彼らと彼らの家族に被害が及ばないように、映像公開は慎重でなければならない」と指摘する。

ウクライナ当局は、映像で彼らの顔を隠すこともせず、SNSで世界に公開した。それを兵士ABに対し通知しただろうか? 参戦した北朝鮮軍の実体を明らかにすることは重要だが、公開が及ぼす影響についての配慮が欠けている。北朝鮮当局者が見ているのは間違いないからだ。

カン記者は、「もし体制を批判するような発言が公になれば、今後本人にも家族にも不利益が及ぶ可能性が非常に高い」と話す。

◆人権に配慮し、本人の意思に基づいた選択を

ゼレンスキー大統領はSNSで、「ロシアの捕虜となったウクライナ軍人と金正恩の兵士を交換する用意がある」と表明している。また、「もし北朝鮮兵士が帰還を望まない場合、他の選択肢がある」とも述べている。

捕虜となった北朝鮮の若者2人には、ウクライナに残る、韓国へ行く、ロシアに引き渡されて北朝鮮へ戻るなどの選択肢がある。いずれにせよ、大前提として本人の意思に基づいた選択でなくてはならない。

高校を卒業してすぐに、兵営で隔離されてさらなる思想注入を受けてきた彼らは、国際的な常識や情勢に極端に疎いはずだ。捕虜となった現在、人権に配慮しつつ、どんな選択肢があるのかを十分に説明することはもちろん、北朝鮮に帰還することも想定した対応が必要だ。

 

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