5年生の教室を訪れた。
「ここで授業を受けられるようになってうれしい。友達と会って話したり、遊んだりできるから」
そう話すのは、日本のアニメが大好きというダニーロくんだ。彼の家族は、東部ドネツクから避難してきた。いま何が欲しいですか、と聞くと、こう答えた。
「ミサイルのない平和な空がほしい。静かで穏やかな空。ただそれだけ」
◆ミサイルにおびえない環境で授業継続
ロシア軍の攻撃で、子どもの犠牲が絶えない。ウクライナでは、防空地下シェルターがない学校や、攻撃が激しい地域の学校は、ネットを使ったオンライン授業となっている。ハルキウで地下鉄駅を改修した学校ができたのは、昨年9月。市全体からすればまだ一部だが、現在、5つの地下鉄駅に教室が設置され、あわせて約2000人の児童・生徒がここで授業を受ける。
「家の庭にロケット砲弾が爆発し、ずっと恐怖で震えていた」
「爆撃で地面が揺れたときのことを、いまも思い出す」
「親戚が爆発で亡くなった」
子どもたち、ひとりひとりが、過酷な体験をしていた。
◆教室では戦争のことを話さない
地下学校の運営を担当するハルキウ教育局部長のユリア・バシキロワさん(53)は、ミサイルに怯えることのない環境のなかで子どもを学ばせたい、との市民の思いに応えるために、教室設置プロジェクトが始まったと説明する。
「教師は、教室内では戦争のことをできるだけ話さないようにしています。ここだけは戦争から遠ざかる場にしたいとの思いです」
ウクライナの別の都市では、兵士を激励する手紙を子どもたちに書かせる学校もあるなか、ハルキウのこの地下学校は、戦争に対してセンシティブな姿勢をとっていた。ロシア国境に近いハルキウへの攻撃が、ひときわ激しいのもその背景にある。
この戦争のなかで感じたことを、日本の市民にどう伝えたいですか、と私はバシキロワさんに尋ねた。
「他者への寛容さ、協調と思いやり、互いに助け合う心、紛争を政治的に解決することの大切さ、それを伝えたい。平和を取り戻すにはどうすればいいのか、ともに考えてほしい」
そう言って、彼女は涙をにじませた。
◆幼稚園も開設、心に傷負う子どもたち
ハルキウ市内中心部に建つ州行政庁舎はロシア軍の侵攻直後にミサイルが直撃し、現在も使用不能のままだ。その庁舎前の地下鉄駅構内に、今年1月、幼稚園も開設された。
「春は何月から始まりますか? 春が来るとどうなりますか?」
園児に質問する先生に、元気な声が返ってくる。
「3月です!きれいな花が咲きます!」
教室は子どもたちの笑顔でいっぱいだ。そして、先生たちも笑みを絶やさない。