市教育局幼児部のナタリア・ビロフリチェンコさん(59)は言う。

「先生たちは、子どもを愛情で包み込むよう心がけています。抱きしめ、やさしく言葉を交わします。心が傷ついた子も少なくないのです」

爆撃で家族を亡くしたり、家を破壊されて避難生活を余儀なくされた家庭もある。ある日、父親が戦死した子が、突然、教室で泣き出したことがあったという。このためカウンセラーが配置され、子どもたちの癒しの時間も設けている。

6歳の娘を地下幼稚園に迎えに来た母親、オルガ・ボンダレンコさん(左)。「ここでは子どもが社会性を身に着けることができる」と地下幼稚園を歓迎。(2024年2月・ウクライナ北部・ハルキウ・撮影:玉本英子)
園児を迎えに来た保護者。地下鉄構内の教室で安全に学ばせる環境ができてうれしいと話す。(2024年2月・ウクライナ北部・ハルキウ・撮影:玉本英子)

帰宅時間になると、教室から駅通路に向かう出入り口の前に保護者が並ぶ。6歳の娘を迎えに来た母親、オルガ・ボンダレンコさん(36)は、家の近所にミサイルが落ち、子どもを外で遊ばせることもできなくなったという。

「ここでは子どもどうしがコミュニケーションしながら社会性を身に着けることができる。地下鉄駅がその場を与えてくれました」

◆「美談」にしてはならず

ハルキウで始まった地下学校の取り組みを、「美談」にしてはならない。地震の被災地で学校が復旧したのではないのだ。人間が引き起こした戦争の殺戮と破壊のなかで、子どもを守るために教室設置を強いられたという現実があるのだ。

国連ウクライナ人権監視団(HRMMU)は、ロシア軍の侵攻から今年2月までの2年間で、少なくとも1万582人が死亡し、うち587人が子どもだったと報告。この悲劇はいつ終わるのか。

地下鉄駅構内を改修した幼稚園で学ぶ園児。戦争の殺戮と破壊のなかで、子どもを守るために教室設置を強いられたという現実がある。(2024年2月・ウクライナ北部・ハルキウ・撮影:玉本英子)
ウクライナ第2の都市、ハルキウは、ロシア国境から約30キロ。ミサイル攻撃や爆撃にさらされる。地図は2024年11月時点。(地図作成・アジアプレス)

(※本稿はふぇみん2024年7月25日付記事に加筆したものです)

 

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