ウクライナ東部ドネツク州ポクロウシク(ポクロフスク)。ロシア軍が迫る町は、連日、ミサイル攻撃にさらされていた。この町で、住民の救助活動を続ける警察医療隊に密着した。取材は2024年2月下旬。 (取材:玉本英子)
◆「負傷住民を置き去りにはしない」
ポクロウシクに入ったのは、雪の舞う2月下旬。35キロ先の激戦地、アウディイウカはロシア軍の猛攻で陥落し、その後方の要衝に位置するポクロウシクにはウクライナ軍の部隊が集結していた。軍用車両が行き交い、兵士の姿が目立つ。町は緊張した空気に包まれていた。
ポクロウシクはロシア軍の絶え間ない攻撃にさらされていた。ここではS-300やイスカンデルMなどのミサイルが多く、軍事施設や行政機関だけでなく、住宅地にも撃ち込まれる。
住民の犠牲があとを絶たず、救出に駆け付ける消防隊や警官も負傷している。ロシア軍は同じ場所に時間差を置いて、攻撃する手法を多用しているため、消防レスキュー隊は安全を確認してからでないと現場に入れない。だが、国家警察が編成した特別医療隊は、危険を顧みず駆け付け、救護活動にあたる。
ポクロウシクで警察医療隊を率いるのは、オレクサンドル・サヴェンコ隊長(36)だ。侵攻前はマリウポリの警察署にいたが、ロシア軍に制圧され、家族とともに脱出。ポクロウシクに転任した。
ボディカメラで撮影された映像を、隊長が見せてくれた。
ミサイルの爆発で立ち上る黒煙、パトカーの割れたフロントガラス、苦痛に唸り声をあげながらハンドルを握る血まみれの手…。現場に入った隊員は負傷しながらも、住民の救出にあたる。
隊長は言う。
「ミサイル攻撃があると、その着弾現場にまず最初に駆け付ける。我々も危険にさらされるが、住民を置き去りにはしない。隊員全員がその思いを共有している」