◆幼い子どもが犠牲に

ミサイル攻撃や砲撃では、子どもも犠牲になっている。ルスラン・フバノフ隊員(32歳)は、昨年11月に起きた病院へのミサイル攻撃で、真っ先に現場に入り、瓦礫の下敷きになった生後6か月の女児を救い出した。

「罪のない子どもがどれだけ犠牲になっているか。そしてその命を救えなかったときの無念さは耐え難い」

病院へのミサイル攻撃で、フバノフ隊員は病院へのミサイル攻撃で、真っ先に現場に入り、瓦礫の下敷きになった生後6か月の女児を救い出した。(2023年11月・警察映像)
この取材後、フバノフ隊員は病院から患者を搬送する際、ミサイル攻撃に巻き込まれ、重傷を負った。ゼレンスキー大統領は声明で彼を「英雄」として称えた。(2024年2月・ポクロウシク・撮影:玉本英子)

警察医療隊のパトカーには、子ども用の小さなボディアーマー(防弾ベスト)とヘルメットが積んであった。危険地域から子どもを避難誘導するのに使われる。アーマーは防弾防爆素材でできていて、オレンジ色になっている。子どもを避難させるときに見失わないようにするためだ。

「自分にも、幼い娘がいる。負傷する子どもを目にすると、自分の娘に重なります。幼い命を何としても守りたい」

フバノフ隊員は、子ども用ボディアーマーを手に、そう話した。

子ども用ボディアーマーとヘルメット。前線地域から子どもを安全に避難させるときに着用させる。「子ども」と書かれている。(2024年2月・ポクロウシク・撮影:玉本英子)

◆占領地域出身の警官も

警官の出動任務中の犠牲や負傷もあいついだため、医療隊は若い警官に医療講習の時間を設けている。

「出血時はまず止血。ひとつひとつの動作が生死を分けるから気を抜くな」
オレクサンドル・チヴェンコフ隊員(34)が、止血帯を見せながら厳しい口調で説明する。これまで警官が死傷した現場をいくつも見てきたからだ。昨年には、彼自身もミサイル攻撃で負傷した。

止血帯を見せながら、応急処置の手順を警官に説明するチヴェンコフ隊員。(2024年2月・ポクロウシク・撮影:玉本英子)
チヴェンコフ隊員も、昨年、ミサイル攻撃の現場で第2波攻撃を受け、負傷。「とつひとつの動作が生死を分ける。住民の命を必ず救う」との思いで医療講習を続ける。(2024年2月・ポクロウシク・撮影:玉本英子)

真剣な表情で講習を受ける若い警官たちのなかには、ロシア軍に制圧された町の出身者も少なくなかった。まだ占領地域に親族が残ったままという警官もいた。

警官になって3年目のマリア巡査は、マリウポリ出身だ。侵攻後、家族は国外に避難したが、自身は東部にとどまり警官の職務を続けることを選択した。

「この戦争は、心も体も打ちのめすほどの重い試練となった。危険は覚悟している。それでも住民のためになりたい、命を救いたいという思いは、以前よりも増している」

ポクロウシク警察にはマリウポリなどロシア軍に占領された地域の出身者も少なくない。写真右端がマリア巡査。(2024年2月・ポクロウシク・撮影:玉本英子)

警官たちは勝利を願いつつも、戦況悪化のなかで日に日に過酷さを増していることも実感していた。

ロシア軍はいま、ポクロウシク近郊3キロまで迫り、住民のほとんどが脱出した。進撃の速度は増しつつあり、いずれ市内で攻防戦となれば、バフムト、アウディイウカに続き、双方に多大な犠牲が出るうえ、町全体が深刻な破壊にさらされることになる。

ポクロウシクは原料炭の生産拠点であり、陥落すれば鉄鋼供給にも大きな影響がおよぶ。西のドニプロ、北のコンスタンチウカに通じる軍事的要衝でもある。(2024年2月・ポクロウシク・撮影:玉本英子)
西側から供与された対地雷・防爆装甲車MaxxProと、その後方にはハンヴィ。ポクロウシク近郊は軍用車両がひっきりなしに行き交っていた。(2024年2月・ポクロウシク・撮影:玉本英子)

 

 

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