◆幼い子どもが犠牲に
ミサイル攻撃や砲撃では、子どもも犠牲になっている。ルスラン・フバノフ隊員(32歳)は、昨年11月に起きた病院へのミサイル攻撃で、真っ先に現場に入り、瓦礫の下敷きになった生後6か月の女児を救い出した。
「罪のない子どもがどれだけ犠牲になっているか。そしてその命を救えなかったときの無念さは耐え難い」
警察医療隊のパトカーには、子ども用の小さなボディアーマー(防弾ベスト)とヘルメットが積んであった。危険地域から子どもを避難誘導するのに使われる。アーマーは防弾防爆素材でできていて、オレンジ色になっている。子どもを避難させるときに見失わないようにするためだ。
「自分にも、幼い娘がいる。負傷する子どもを目にすると、自分の娘に重なります。幼い命を何としても守りたい」
フバノフ隊員は、子ども用ボディアーマーを手に、そう話した。
◆占領地域出身の警官も
警官の出動任務中の犠牲や負傷もあいついだため、医療隊は若い警官に医療講習の時間を設けている。
「出血時はまず止血。ひとつひとつの動作が生死を分けるから気を抜くな」
オレクサンドル・チヴェンコフ隊員(34)が、止血帯を見せながら厳しい口調で説明する。これまで警官が死傷した現場をいくつも見てきたからだ。昨年には、彼自身もミサイル攻撃で負傷した。
真剣な表情で講習を受ける若い警官たちのなかには、ロシア軍に制圧された町の出身者も少なくなかった。まだ占領地域に親族が残ったままという警官もいた。
警官になって3年目のマリア巡査は、マリウポリ出身だ。侵攻後、家族は国外に避難したが、自身は東部にとどまり警官の職務を続けることを選択した。
「この戦争は、心も体も打ちのめすほどの重い試練となった。危険は覚悟している。それでも住民のためになりたい、命を救いたいという思いは、以前よりも増している」
警官たちは勝利を願いつつも、戦況悪化のなかで日に日に過酷さを増していることも実感していた。
ロシア軍はいま、ポクロウシク近郊3キロまで迫り、住民のほとんどが脱出した。進撃の速度は増しつつあり、いずれ市内で攻防戦となれば、バフムト、アウディイウカに続き、双方に多大な犠牲が出るうえ、町全体が深刻な破壊にさらされることになる。