札幌市は2月6日、西区役所(同市西区琴似)の玄関付近でアスベスト(石綿)の「漏えいのおそれがある」として、同日午後3時から区役所を閉鎖したと発表した。ところがもっとも発がん性の高い“最恐”のクロシドライト(青石綿)が外部に大量飛散した可能性が高いことがまったく報じられていない。(井部正之)

札幌市・西区役所の臨時玄関のようす。この付近でも石綿を含むとみられる総繊維の漏えいがあった(札幌市提供)

◆最大で住宅地の400倍超

西区役所は1971年竣工。玄関にある約20平方メートル(3.756×約5.5メートル)の風除室の天井裏と壁の金属パネル裏に石綿含有の吹き付けロックウールが施工されていた。今回の工事はこれを除去するもの。

発表によれば、2月4日に西区役所の玄関に設置されている風除室の壁パネル裏の石綿の除去工事を実施していたところ、清浄な空気だけが排出されるはずの排気口で粉じん濃度が上昇するという異常が起きた。現場確認したところ、排気ダクトに穴が開いていた。同社は損傷部を補修し、再度粉じん濃度を測定したが、値が検出されなかったため作業を再開。同日除去作業を終了した。

ところが同日の午前10時から午後0時、午後1時から午後3時まで、それぞれ周辺の4カ所で気中濃度測定をしたところ、2月5日午後7時の速報で作業管理の目安を超えていたことが明らかになった。

これまで報じられていないが、問題は吹き付けられた石綿がもっとも発がん性の高い青石綿で、その含有率が重量の5%超から50%という高濃度だったこと、そして外部への漏えいが最大で空気1リットルあたり80.53本にも達したことだ。しかも一般の利用者や職員が居る区役所1階の待合ホールで午前に同0.68本、午後に同11.9本。臨時に設けられた出入口の外側でも午前に同5.1本、午後に同1.36本だった。

単位は、石綿以外も含む繊維を計数する「総繊維数濃度」で、2時間測定の平均値。石綿がどの程度含まれるかは、走査電子顕微鏡(SEM)で検査中という。

だが発注元の市建築工事課に筆者が「まず間違いなく石綿が漏えいしたのではないか」と指摘したところ、取材に応じた課長は「非常に可能性が高い」と認めた。

大気中の石綿濃度について環境基準は定められていないが、すでに使用禁止のため、発生源が基本的にない地域ではほぼ検出されない。2023年度の環境省調査で住宅地域の平均濃度はわずか同0.19本。定量できる限界の同0.056本を下回っていることも珍しくない状況で、2021年度調査では「定量下限未満」がじつに32%に達したほど(2022年度16.7%、2023年度12.8%)。それほど住宅地など発生源がなければ、石綿の飛散はないというのが実態だ。

そうした状況をふまえて上記の平均濃度と比較すると、今回漏えいが見つかった最大値の同80.53本は住宅地域のなんと423倍に達する。1階待合ホールでも午後には62倍におよぶ。

ただし前述のとおり、これは石綿以外も含む総繊維数濃度で、おそらく吹き付け材に含まれたロックウール繊維も含むはずだ。石綿繊維だけの計数結果は現段階では出ていないが、市も認めるように青石綿の漏えいはまず間違いないはずだ。

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