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金正恩氏が、労働党幹部の不正腐敗行為を異例の激しさで批判した。先月末に開かれた党中央委員会書記局(秘書局)会議で、幹部が飲酒接待を受けたことを「特大型の犯罪事件」などと語気強く叱責したのだ。地方では早速、幹部接待の現場である食堂が調査対象になり、騒動になっているという。かねてより金正恩氏が訴えてきた「不正腐敗との闘い」の一環とみられるが、住民たちの受け止めは冷ややかだ。(洪麻里/カン・ジウォン)
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◆随分大げさな「特大事件」の中身とは
金正恩氏は1月27日に開かれた党書記局拡大会議で、次のような発言をした。
「人民の尊厳と権益を甚だしく侵害する重大な事件が発生した」
朝鮮中央通信によると、南浦(ナンポ)市温泉(オンチョン)郡では、40人余りの党幹部が酒の供応による接待を受けるといった「特大事件」が発生。慈江道(チャガンド)雩時(ウシ)郡では、地域住民の財産を侵害する「特大型犯罪行為」があったという。
なんてことはない。一言でいうと、幹部が住民から賄賂や飲酒接待を受けた事案があったということだ。
北朝鮮では、賄賂を受けて便宜を図ることは日常茶飯事だ。取締りを見逃してもらったり、組織の活動を抜けて商売をしたり、果ては脱北までもが賄賂によって成立してきた。そうした現状と照らし合わせると、あまりにもオーバーな表現に聞こえる。
◆つぶされた幹部用の接待部屋
しかし、地方都市では早速騒ぎになっているという。金正恩氏の発言を受けて、「接待事件」の取り締まりが始まっているのだ。両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)市に住む取材協力者は次のように伝える。
「市党組織部から派遣された人が、幹部接待に関する調査をして回り、食堂が大騒ぎになっている。一部の食堂では、こっそり『コル房』と呼ばれる隠れ個室を作っているのだが、従業員を調査して『コル房』をつぶしてしているそうだ」
「コル房」とは何だろうか? 協力者はこう説明する。
「いい食堂では一角に用意されているのだが、頼み事がある人たちがそこで幹部をもてなすのだ。夕食は大体100中国元(約2千円)から。『コル房』に続く裏口もあり、人目につかないようになっている。予約が必要なほど人気がある」
◆なぜ今更? 冷ややかな視線
金正恩氏は、「人民第一主義」を標榜し、幹部による権力乱用を強く批判してきた。その傾向はコロナ・パンデミック期に強まった。徹底的な防疫を実施するにあたって、賄賂によって規則がないがしろになるのを警戒してのことだった。
これまでも幹部らの不正腐敗を度々名指しで叱責し、処罰を実施。今回の幹部接待問題についても、「最も優先的な問題として重大視し、会議を招集した」と強調した。党内規律を非常に重視している姿勢がうかがえる。
だが、協力者はこうした方針に疑問を呈する。
「(接待は)当然のことだと思っていた。幹部たちが接待を必要とするのではなく、困り事を解決してほしい人が接待を必要としているのだから。昔からのことなのに、なぜ今更問題にするのだろうか」
本を正せば、住民たちが衣食住の心配なく暮らすことができ、様々な規制が緩和されれば、幹部への賄賂や接待は必要なくなるだろう。幹部への処罰以外にも、不正腐敗が蔓延する素地をなくす方法があるはずだ。
※アジアプレスは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。
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