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2022年夏以降、北朝鮮の官営メディアから「協同農場」という言葉から消え去り、単に「農場」という名称に変わった。理由については、研究者の間から様々な推測が上がっていたが、確かなことは分からなかった。アジアプレスは、北朝鮮国内に住む複数の取材協力者を通じて農場現地で「協同」の名称を使用していないことを確認。農場が国営化されたという情報もあった。(チョン・ソンジュン/カン・ジウォン)
◆協同農場は国営化されたのか?
2024年10月、アジアプレスの取材協力者A氏は、咸鏡北道(ハムギョンブクト)のある農場を現地調査し、「協同農場」の名称が「農場」に変更されたことを確認した。
「協同農場という概念をなくし、里ごとに地域名をつけて、『○○農場』などと呼んでいる」
A氏によると、日々の生活が厳しい現地の農場員たちは、農場の名称変更に大した関心を示していないという。また、現地の農場員に対しては、名称変更についての詳細な説明もないようだ。だがA氏は、この変化は農地の国有化と関連があるとみている。
◆農場経営の裁量権拡大
今年2月、咸鏡北道の別の農場で働く農場員B氏も、「協同農場」を「農場」と呼ぶようになったと伝えてきた。B氏は各農場の経営の裁量権が大きく拡大したとし、次のように述べた。
「農場も国家計画遂行のため、自立的に生産活動をしろというのが原則だ。農業に必要な営農物資、種子、油なども農場が独自で調達する方針になった」
(農場の運用の構造的な変化に対しては次の記事で詳細する)
こうした大きな変化の背景には何があるのか? そのヒントは、2021年12月に開かれた労働党第8期第4次全員会議における金正恩氏の発言に見ることができそうだ。
金正恩氏は会議で、「ウリ式の社会主義農村発展の偉大な新しい時代を切り拓こう」と述べ、農業問題を社会主義、共産主義建設のために必ず解決しなければならない戦略的問題だと強調していた。
北朝鮮が新しい時代の農業綱領だとみなすようになった金正恩氏のこの報告内容は、協同農場の土地の所有権問題に関する言及だったと推測が可能だ。
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◆国家所有転換は法律にも明示
さらに最近の法律の改定にも、農地国有化への転換の根拠を求めることができる。
まず北朝鮮憲法(2023年9月改正)第23条を見てみよう。
「国家は農民の思想意識と技術文化水準を高め、協同的所有に対する全人民的所有の指導的役割を高める方向で(省略)協同団体に入っている全成員の志願的意思に従って、協同団体所有を、漸次全人民的所有に転換させる」
ここでいう全人民式所有とは、国家所有を意味する。
土地法(2022年5月改正)第11条には、以下の規定がある。
「協同団体所有の土地は協同経理(注 経営)に入っている勤労者たちの集団的所有だ」
さらに、農業法(2020年9月改正)第4条には 「国家が国営経理の指導的役割を高め、協同経理を成熟させた条件と機能性、協同団体に入っている成員たちの志願的意思に従って、漸次国営経理に転換させるようにする」 と明記されている。
つまり、協同農場とは、北朝鮮が追及する共産主義に向かうために必ず克服しなければならない対象だとしているのだ。