鴨緑江上の運搬船で働く北朝鮮の労働者。犬を連れている。2023年10月に中国側から撮影アジアプレス

2023年末、北朝鮮政権は国営企業や公務員の労賃(月給)を一斉に引き上げた。その年初に比べて約10倍。破格の大幅賃上げであった。また、合わせて労働者本人分に限り7~10日分程度の食糧配給も実施した。企業や職場によって多少の差はあるもの、各機関、企業の判断ではなく「国策賃上げ」であったのは明らかだ。その後、「労賃」はちゃんと支払われているのか? 金正恩政権の意図は何だったのか? 2回に分けて報告する。(石丸次郎/カンジウォン

◆10倍賃上げでも350円程度

朝鮮中央銀行が発行する「全盛カード」。北朝鮮の官営ウェブサイト「朝鮮の今日」に2016年に掲載された写真を引用

2023年12月、アジアプレスでは咸鏡北道(ハムギョンブクト)と両江道(リャンガンド)で、地方政府の公務員の他、銅鉱山、鉄鉱山、製紙工場、靴工場などで、「大幅賃上げ」の実態を調査した。1カ月の労賃の概要は次のようなものだった。企業や職位により多少の差があるという。(北朝鮮では「月給」ではなく「労賃」と呼ぶ)

公務員 3万5000~5万ウォン
教員  3万8000ウォン~5万ウォン
国営企業の一般労働者 3万5000ウォン~5万ウォン
「年老保障」(退職者の年金) 2万5000ウォン
※この時点では1000ウォンは約17円。現在は約7.2円。

その後の調査で、咸鏡北道、両江道以外の地域でも、同様の「賃上げ」が行われており、各地の取材協力者たちによれば、その水準は今年2月も維持されていた。

朝鮮中央銀行が発行する「全盛カード」。北朝鮮の官営ウェブサイト「朝鮮の今日」に2016年に掲載された写真を引用

◆基本給は国が支給か

これらの労賃は、基本的に国家によって支払われているようだ。さらに収益に応じて上乗せする企業があって、企業間に格差がある。また、昨年から、追加勤務や成果を出した労働者に対して3000~5000ウォンの追加賃金を支払う企業が出ている。一種のボーナスの概念である。

「企業によって待遇に差が大きいので、悪い所から良い所に移ろうとする人が多い」と、両江道の取材協力者は言う。

◆労賃支給は決済カードで

労賃の支払いのほとんどは決済カードで行われるようになり、現金支給は徐々になくなっていった。個人の銀行口座や、企業や機関が発行した決済カード(デビットカードのようなもの)に入金される。これは、国営商店や、市場、食糧専売店である糧穀販売所で使用できる。両江道の協力者はこのように言う。

「現金での支払いを受け付けない店もあるし、カードが便利なこともあって現金を使う機会が減った。電話料金でも決済できる。問題は頻繁な停電だ。店の機械が使えない時は現金で支払う。政府は将来、すべてカード払いにして現金取引を無くすと言っているが、いつのことになることやら」

電気供給が不安定な地方の農村では、まだ決済カードはほとんど普及していないという。

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