◆さらに厳しくなった職場への縛り付け
金正恩政権は、コロナ・パンデミックが始まった2020年頃から、防疫の必要性もあり、個人の経済活動を厳しく制限・統制した。
自宅で個人食堂を営むのは禁止。パンや餅などの食品、衣料品の縫製、リアカーを使った運搬などの小商いに人を雇うことが不可能になった。自由な商業空間であった市場は、取引できる品目が大幅に減らされた。
成人男子は配置された職場への出勤を強要されて、商行為や賃仕事をすることが困難になった。職場を離れて別の稼ぎに精を出す者は「職場離脱者」「無職者」として処罰されている。
このような強力な規制は、「ゼロコロナ」政策が緩和され始めた2023年以降も維持された。都市住民は現金収入を減らし、地方都市では脆弱層に栄養失調や病気で亡くなる人も現れた。金正恩政権による労賃の大幅引き上げは、反市場政策と住民統制強化を進める中で実行されたのだった。
◆大幅賃上げで暮らしは良くならなかった
大幅賃上げから1年余りが経った。当の北朝鮮住民は、現在どのように評価しているだろうか。両江道に住む2人の協力者の言葉を紹介したい。
「4~5万ウォンというのは小さな金額ではないし、もらえることは嬉しいのだが、問題はそれだけでは食べていけないこと。労賃だけでは必要な食糧を買うのにまったく足りない。(大幅賃上げで)生活が楽になったという声は聞かない」(前出A氏)
「商売ができていた時の方がずっと良かった。今は、政府がやれと言うとおりに出勤して働かなければならず、奴隷になったようなものです」(B氏)
統制強化とセットで実施された大幅賃上げ。その「副作用」について注視が必要だ。
※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。
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