◆「もうこの戦争を終わらせて…」
この病棟で亡くなった妊婦、カーチャ・グーゴワさん(39歳)は、妊娠8か月だった。体調を崩し、診察を受け、夫のセルゲイさんとともに病院に泊まることになった。深夜、最初のミサイルが自宅近くに落ちたと、妻の母から電話があり、セルゲイさんは様子を見るため急いで家に戻った。その直後、カーチャさんがいた産婦人科病棟をミサイルが襲った。
「妻は、まもなく生まれてくる赤ちゃんを心待ちにしていました。それがこんなことに」
セルゲイさんは、妻を助けられなかったことを悔やんだ。
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私は、カーチャさんの自宅を訪ねた。部屋には、たくさんのぬいぐるみが並んでいた。
母のオルガさんは、力なく言った。
「人が、子どもが毎日殺されている。私は感情すら失ってしまった。もうこの戦争を終わらせてほしい…」
日々、断ち切られる住民の命。地震のような自然災害でなはなく、戦争という人為的に引き起こされた殺戮によって奪われた命である。本来、止められるはずの犠牲、それを国際社会も誰も止められないでいる。
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◆「命を救うことが敵に対する勝利」
警察医療隊のシュシュラ隊員とセリドヴォの町を歩いた。ロシア軍が迫るなか、脱出する住民も出始めていた。
「ひとりでも多くの命を救うこと。そのひとつひとつが敵に対する勝利と思っている」
彼女は最後までとどまって、住民に寄り添いたいと話した。
取材から8か月後、ロシア軍はセリドヴォを完全に制圧。現在はポクロウシク(ポクロフスク)まで迫りつつある。医療隊員は別の町に移り、任務を続けている。
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