◆石綿除去する装置から飛散

最後の現場は10月8日の解体で、これも建屋2階の天井やはりの白石綿を含む吹き付け材の除去である。負圧隔離養生や飛散抑制剤による作業で、除去現場内では差圧計で「-7パスカル」と負圧を確認したが、前室の外部との出入口付近では繊維状粒子の自動測定器で数値が上昇。また2階に1台だけ設置した負圧除じん装置は、排気のビニールダクトが窓から1階に垂らしてあり、やはり折れ曲がって「排気口の風量に影響している」と印象だったという。

測定では場内を負圧に維持し、石綿を除去して清浄な空気だけを排出するはずの「負圧除じん装置」の排気口付近で総繊維数濃度が同1本超の同2.3本。石綿繊維数濃度は同0.5本で白石綿22.2%検出だった。

いずれも2時間平均の濃度であり、低濃度ながら、外部に石綿が漏えいした飛散事故といってよい。一歩間違えれば高濃度飛散につながる事故だった。しかも3件とも負圧や養生の管理が適切にできていないという基礎的(かつ最重要)な現場管理の不備が原因であり、お粗末というほかない。

そして重要なのは同省調査は、測定に同意した事業者に対し、あらかじめ日時を通告して実施する「通告調査」なのだ。当然、事業者は準備して臨んでいる。そのため同省の検討会でも「実際にはもっと悪い」と認めている。国の測定があるから必死に対応したのにもかかわらず、4割超で漏えいしていたことは深刻である。

前もって国の測定があることを知っていても3件とも負圧管理すらままならず外部漏えいが起きた状況からは、技術力の低さを感じざるを得ない。

じつはこれまで筆者が作成してきた漏えい率のまとめでは、石綿飛散の判断について、同省が「目安」とする空気1リットルあたり1本超の石綿が作業場外(出入口にあるセキュリティーゾーン内更衣室の飛散含む)で検出した場合として、同省の判断基準に合わせてきた(また除去工事における石綿の漏えいは現場単位とし、1つの現場で複数の箇所から石綿の漏えいがあった場合も1地点として計上)。つまり、同省でも飛散事故と認めざるを得ないものにしぼってきた。

そのため今回の漏えい事案3カ所のうち、2カ所は石綿繊維数濃度で同1本以下だったことから飛散件数には含めていない。よって2024年度に同1本超の漏えいがあったのは7カ所の現場のうち1カ所で、漏えい率は14.3%になる。

2010年度からの計15年の累計では94カ所の調査のうち、34カ所で同1本超の漏えいを確認。累計漏えい率は36.2%。

石綿はきわめて強力な発がん物質で、吸うことで数十年後に中皮腫(肺や心臓などの膜にできるがんで予後が非常に悪い)や肺がんを発症するおそれがある。かねて日本では女性の中皮腫発症率が高く、環境ばく露の可能性があることが指摘されてきた。

すでに石綿の使用などは禁止され、現在の発生源は建物などの改修・解体に移っている。こうした外部への石綿飛散をともなう不適正作業により知らず知らずのうちに少しずつ石綿を吸ってしまい、将来被害を発症することが懸念される。

とくに日本では規制が緩いこともあって、飛散事故だらけというのが実態だ。2020年の規制改正で石綿を含む成形板の除去などは原則破砕禁止にようやくなったが、実際には現場は「何も変わってない。いまも普通に違法工事してますよ」と真面目な除去業者が嘆くように大半が不適正作業ともいわれる。むしろ「以前より悪くなっている」との声も聞かれるようになった。そうして事実上の石綿“公害”が続く。

【関連写真】環境省「通告」調査にみる除去工事のアスベスト漏えい率の推移

 

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