◆調査ミスの説明なし

しかも大ホールなどの天井に使用された吹き付け材は当初から「ゾノライト吹き付け」とわかっていたという。ゾノライト吹き付けは「石綿含有吹き付けバーミキュライト(ひる石)」に分類され、吹き付け石綿と同様にレベル1に該当し、もっとも厳しい飛散・ばく露防止対策が義務づけられていることがよく知られている。

市によれば、同社が作成した調査結果の表でも「ゾノライト吹き付け」と記載されていた。つまりHERの調査者はゾノライト吹き付けと認識していたことになる。にもかかわらず、「レベル3」と誤判定されていたのは不可解きわまりない。現場に詳しくなくても、ネットで調べれば国の資料でレベル1との記載が簡単に見つかるからだ。

機械室を一切調査しなかったことも信じがたい。さらに建物の外壁を調べていたら間違いなく一目でわかるはずの煙突まで見落とした。いずれも調べて当然であり、ずさんきわまりない調査といわざるを得ない。

市はゾノライト吹き付けの誤判定について同社に問い合わせたが、「そういう判断をした」というだけで、調査ミスの説明はなかったという。

ところが市は煙突や配管保温材の見落としについては、「私どもの職員が説明不足で見落とした」とかばう。

理由を聞いたところ、同社による現地調査の際、市側で隣接する機械室に案内しなかったと対応の不備があったと明かす。もちろん市が「機械室がある」ときちんと説明していれば、調査された可能性はあろう。しかし、そもそも機械室の有無を確認するなど石綿調査の基本である。

まともな調査会社なら、事前にグーグル検索などで施設の外観などを確認しておくのはすでに常識といってよい。実際に施設名で検索すると煙突がはっきり見える施設写真もすぐ出てくるし、ストリートビューでも煙突が確認できた。現地調査で確認する必要はあるが、あらかじめ煙突の存在を示唆する情報はごく簡単に入手できた。これらを見落とすというのは、「ISO認定の環境測定・分析のプロフェッショナル」を謳う会社としてはあまりにもお粗末というほかない。

調査ミスの経緯や理由について同社に4度問い合わせ、そのたびに「担当者が不在なので、こちらからご連絡させていただきます」との返答だった。しかし連絡はなかった。4月14日、同社ホームページの「お問い合わせフォーム」からも質問を送ったが、20日までに回答はなかった。

市から解体設計を請け負った小野設計(同県姫路市)は同14日、調査ミスのことを伝えると驚いたようすで、「(市から)直接うかがっていないので調べてみないとお答えできない」という。確認後に改めて話を聞こうとしたが、「取材には答える立場にない」と拒否した。

じつは市は調査ミスに抗議もしていない。市の立場では、結果として解体業者の調査により石綿使用は判明しており、損害は生じていないとの判断になるからだ。

同情すべき事情として、解体設計で元請けが設定した石綿調査費用は10検体の分析を含め、わずか約55万円(税込)だったことが市への取材で判明した。仮にピンハネされていなかったとしても、外部委託で10検体分析すれば下手をすれば半分も残らない。そこそこの規模の建物全体の石綿調査としては「激安」との声が現場から聞こえてくる。

一度打ち合わせで現地に行って、そこで図面などをもらって聞き取りし、改めて現地調査を徹底的に実施。その後分析結果もふまえて報告書を作成との手順だと間違いなく利益が出ない金額という。であれば、いきなり現地調査で1日仕事で終わらせる、ということだろう。

石綿調査・分析の専門家は「費用が安いから、当日(相手から)いわれたところだけ見て、それで終わり。あとはなにがあっても気にしないというやり方ではないか。あり得ないずさん調査です。(儲からないのなら)こんな仕事受けるからいけない。断ればよい」と呆れる。

続けて次のように指摘する。

「多くの分析機関が石綿の分析結果しか報告書に記載せず、調べた建材が何かを書かないことも問題だと思います。どの建材かまではわからなくても、どのような物質で構成されているのか示すことでも誤判定を防ぐことにつながります」

ただし今回の調査ミスはそれ以前の異常な代物という。

★新着記事