
◆現地調査で分かった農場の生産権限の拡大
金正恩政権の農業政策改編の一環として、農場の「企業化」が本格的に推進されていることが、改正された法律と現地調査を通じて分かった。農場の自律的な経営範囲が拡大し、金日成がかつて提示した「主体農法」の原則は敬遠され過去のものになりつつあるようだ。本記事では、「生産」の側面から、変化する農場の現状を報告する。(チョン・ソンジュン/カン・ジウォン)
<北朝鮮特集>金正恩氏が挑む農政改編とは何か(1) 農場から「協同」が消えた 農業関連法規を大幅見直し
◆農場は「企業体」だと法律に明示
北朝鮮当局は2021年11月、農場法を改定した。これは、2020年代に入って4回目の改定だ。同法第2条は、農場を次のように定義している。
「農場は土地を基本生産手段として、農業生産と経営活動を進める社会主義農業企業体である」
この条文は、2015年に初めて規定された。ただし、当時は「社会主義農業企業体」ではなく、「社会主義農業企業所」という表現であった。
法律で農場を「企業」と規定したのは、農業生産の主体として、農場の地位と性格を根本的に変えようとする趣旨とみられる。農場の企業化を通じて、食糧生産効率を引き上げようというのが政権の目的だろう。
法改定以後、現地の農場運営では、実際にどのような変化が起きているのだろうか? アジアプレスは、咸鏡北道(ハムギョンブクト)の二つの農場で調査を進めてきた。
調査した2人の取材協力者のうち、A氏は農場員、B氏は都市住民だ。A氏は自身の農場で、B氏は近隣の農場に赴き、調査を続けている。調査対象である2つの農場は、ともに農場員が500人ほどで、稲作よりトウモロコシ栽培を中心とする北部地域の典型的な農場だ。
◆経営自律権とともに拡大する責任
今年2月初旬、A氏は次のように伝えてきた。
「これからは、農場が自律的に生産活動をしろという方針になった。(国家計画に基づいた生産分は国に納めた上で)国家計画を超過した生産物をもって、必要な営農資材、種子、油は農場が独自に調達しろということだ」
従来は国家から全ての営農資材が与えられ、農場は単に生産計画を遂行するのみだったのとは大きく異なり、これからは農場が企業のように収支を調整して経営しろという趣旨であると分析できる。農場経営自律権の拡大は、農業生産における国家の関与を縮小する一方、農場の責任と役割を強化する結果につながっている。
◆種子の選択権も農場に
ここでまず、農業の基本ともいえる種子選定における変化に注目しよう。
今年2月末、A氏は農場に種子選択権が与えられたと伝えてきた。
「これまでと異なる点は、種子の選択や穀物管理も、農場が責任持って遂行しろという方針になったことだ。昔は種子も国から与えられていたが、今は国営の採種農場で農場が必要な品種を直接買わなければならない」
3月中旬のB氏の調査でも、似たような内容が確認できた。
「農場員たちが採種農場を回りながら、種子1キロと食糧1.5キロを交換する方式で種子を確保している」
これに先立つ昨年7月、B氏は次のように報告していた。
「今年(2024年)初め、農業省から『種子革命』の指示が下された。地力(土質状態)に応じて果敢に種子変更を要請しろということだ」
国が耕作する作物を決め、種子を供給した過去と比較して、これは確かな変化だといえる。