
◆改正法における分配
法律から現行の分配制度の詳細を把握することには限界があるが、いくつかの内容を推測することはできる。
2021年11月に改正された農場法第30条には、
「農場が分組で、国家穀物義務収売計画と農場共同造成分を遂行した場合、(中略)生産した穀物を分組単位で全量現物分配しなければならない」
と明記されている。
また2021年3月に改正された糧政法第12条は、
「国家計画機関と中央農業指導機関は、毎年、穀物収売計画を義務収売計画と契約収売計画に分けなければならない。義務収売計画は、土地と灌漑用水、電力利用分、国家が投資した営農物資用分などに相当する量の穀物を買い取ることにし、年初に農業指導機関に伝達しなければならない。(中略)契約収売計画は、全穀物生産計画の中で、義務収売計画と農場が自己消費する穀物などを考慮して決める」
と定めている。
穀物の収売とは、原則として、国家が住民に対して食糧供給すると主張する当局が、軍隊や都市住民、工場労働者などの配給を保証するために、農場から国定価格で食糧を買い取ることをいう。

◆分配を優先する計画、何が変わったのか?
改定された法令により、分配の優先順位は
1.義務収売計画
2.契約収売計画(農場共同持分)
3.農場員分配
の順で行われることが分かる。
国家計画を優先するという点では過去と変わらない。ただ、計画さえ遂行すれば残りはすべて農場員の持分であるという点は、大きな違いである。
これは農場員の生産意欲を高めるための措置であり、新しい分配政策の核心と言える。一見もっともらしいがここには落とし穴がある。北朝鮮農村の慢性的な物資不足と非効率性、土地能力の低下、自然災害などの影響で、国家計画を満たすことは決して容易ではないからだ。
もう一つ注目すべきなのは、二つの法令がほぼ同時期に改正されたにもかかわらず、用語が統一されていない点である。農場法では「共同造成分」(共同持分の意)という用語が、糧政法では「契約収売計画」と表記されている。依然として分配政策に混乱があることを示唆している。
次回は、現場では実際に分配政策がどのように導入されているのか、現地取材協力者からの報告を通じて紹介する。(続く)
※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。

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