収穫を終えたトウモロコシ畑の中で雑談する人々。男性は国境警備に動員された農場員と見られる。労農赤衛隊(予備軍)の服装をしている。2023年9月下旬、平安北道の朔州郡を中国側から撮影(アジアプレス)

◆期待した分配増加はどうなった?

新しい分配政策が適用された初年度の収穫期を迎えた2024年10月、B氏は同じ農場を訪れて、分配状況を次のように報告してきた。

「生産計画を達成できなかった農場員らは分配から除外されるそうだ。分配は上半期と下半期に分けられ、上半期は秋の収穫の穀物で支給され、下半期は小麦、大麦などの二毛作で作ったものに代替するそうだ」

農場員である取材協力者A氏も、2025年2月に前年の分配状況について報告してきた。

「現在、国による生産計画量が多過ぎて、分配を得るのはしんどい状況だ。昨年も70%しか分配を与えられなかったのに。(今年は)いったん4月分まで分配を与え、残りは農繁期に毎月供給することになった」

分配を分割して支給するという協力者たちの報告は、「ポリコゲ」(春窮期)の絶糧世帯への対策だとも考えられる。

北朝鮮の農村では、前年収穫した食糧が尽き、まだ新しい穀物が収穫できない春の端境期に飢えが発生する。食糧もお金も底をついた「絶糧世帯」が毎年続出し、農場に出勤できない人まで出現する。

新しい分配政策の実施にもかかわらず、農場員らが満足な分配を受け取れないという慢性的な問題は、今年も続きそうである。

不足する食糧を調達するため、農民たちはどのような行動をとってきたのか。また、金正恩政権による新しい農業政策によって、農場員の生活に生じている現実的な困難とは何なのか。次回以降、報告する。

※アジアプレスでは、中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。

北朝鮮地図 製作アジアプレス

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