
<北朝鮮特集>金正恩氏が挑む農政改編とは何か(1) 農場から「協同」が消えた 農業関連法規を大幅見直し
北朝鮮が導入した新しい農業分配制度は、むしろ農民の意欲を低下させているようである。ある農場では、今年の国家による生産計画量の設定は、全生産量の70~80%に達する過剰なものだった。さらに計画未達成の場合は農民の取り分から差し引かれることになったという。農場員らの間では「やる気が失せる」との不満の声が上がっている。北部地域の農場で行った現地調査をもとに報告する。(チョン・ソンジュン/カン・ジウォン)
◆法改編が農場で反映されるまで長時間
北朝鮮政権が進めている全般的な農業政策の改編。こと分配に関しては、法律改定の後、それが農場運営に反映されるまで随分時間がかかっている。
関連する農業分野の法律が改訂されたのは2020年から23年にかけてであったが、アジアプレスが分配制度に変化が現れているという情報に初めて接したのは2024年3月だった。当時、咸鏡北道の取材協力者は次のように伝えてきた。
「農業関連法が変わり、支配管理、販売、流通、国家計画の遂行についての具体的な指針が下りてきて、分配と供給の方式が変わったそうだ」
アジアプレスが把握できた情報は限られたものであるが、実際に農村で実施されている分配制度の変化について報告したい。
農場を調査したのは3人の取材協力者だ。A氏は農場員、B氏とC氏は都市住民で近隣の農場を調査した。A氏とB氏はともに咸鏡北道に居住しており、調査対象はいずれも農場員500人規模の農場で、稲作ではなくトウモロコシを中心に栽培している。

◆過度な国家生産計画に「やる気が失せた」
2024年5月、咸鏡北道の取材協力者B氏は、近隣の農村を現地調査した際、現地の農場員から聞いた話を次のように伝えてきた。
「国家計画量は生産量の70~80%になるそうだ。残りが(農民への)分配になるわけなので、早くも秋の分配(が少ないこと)を心配していた。(農場幹部らは)、今年は、生産量が減れば農場員の分配量も減ることになると、ずっと強調していて、とにかく農場の仕事を自分の事としてやれと促している」
しかし、国家の生産計画量が多すぎるため、新しい分配政策は最初から農場員に信頼されてない、とB氏は指摘した。
「作業班ごとに国家計画課題(ノルマ)が通知されたが、1町歩(約1ヘクタール)当たりトウモロコシは4.5トンに設定されたので、農場員らの不満が大きかった。通常は3.5トンが基本なのに、高く設定されたからだ。 (新しい分配政策で)少しは余裕が生じるかと思っていたのに、国家計画の量が高く設定されため、農民たちは『やる気が失せる』と言っていた」
※北朝鮮の農場は数~数十の作業班で構成され、その下に生産の末端単位である分組が組織される。分組には通常10人前後の農場員が所属する。