◆市民の抵抗の「証し」

グラフィティ・アーティストとして知られるバンクシーについて話を向けると、イホール氏は、すこし困惑した顔になった。

「高額な価値がつくようになった彼の作品は、“商業”の領域にシフトしてしまったようだ。それは作者の手から離れ、周囲の人間たちの収益の対象になった。自分たちのグラフィティのスタイルは、あくまでも路上と市民を結ぶもの、侵攻への抵抗の“証し”なんだ」

猫と手をつなぐ左の白い熊のキャラクターは、熊やウサギの編み物とぬいぐるみでウクライナの避難民女性を支援する団体とのコラボ。(2024年3月・オデーサ・撮影:アジアプレス)
ウクライナ伝統衣装ヴィシヴァンカとがっちり手を組み握手する猫は、台湾の市民のウクライナ応援に応えたもの。台湾からもLBWSのインスタグラムにメッセージが寄せられる。(LBWSのインスタグラムより)

ペイントを手掛けるにあたって、仲間たちと心がけていることがある。
「罵りの言葉は使わない」を決めているのだ。

「子どもの命まで奪うプーチンを憎む市民は多い。けれど『プーチンのクソ野郎』のようなセリフを猫には言わせない。下劣な言葉を使えば、敵と同じレベルに堕ち、自分たちの猫の品位を貶めてしまう。ネガティブな感情を増幅させても空虚なだけだ。むしろ郷土への愛、命の尊厳、抵抗に立つ人びとへの敬意を絵に込めたい」

グラフィティやスプレーペイントは以前から至る所にあるが、LBWSの猫グラフィティは市民に親しまれている点が異なる。(2024年3月・オデーサ・撮影:玉本英子)
軍用物資が不足するウクライナ軍は、兵士たちが自家用車を供出して使うことも少なくない。兵士が乗る車に猫型カモフラージュ迷彩塗装を施すボランティアも続けている。(LBWSのインスタグラムより)

◆市民の団結心の強さを感じた

ロシア軍の攻撃で知人が命を落とし、イホール氏も苦悩した。長引く戦争で憔悴していく人びとや、疲弊する社会に目を向けたとき、このままのスタイルでいいのか自問することもあった、と話す。

「毎日のミサイル攻撃とあいつぐ犠牲で、大きな喪失感が人びとの心に広がっていった。自分も心が折れそうになった。それでも描き続けるのは、市民の団結心の強さを感じたから。ウクライナ人は決してくじけないという思いを、これからも刻んでいきたい」

かつてオデーサはウクライナ有数の観光地で、国外からのツーリストでにぎわっていた。いつか戦争が終結したウクライナで、市民の抵抗の“証し”となった、「オデーサ猫」を多くの人に見てほしい。

猫キャラに特定の名前があるわけではなく、シチュエーションやデザインによって、異なった名と顔を見せる。(2024年3月・オデーサ・撮影:玉本英子)
「いつも楽しくいこうぜ」。「ウクライナ人は決してくじけない」という思いを、これからも刻んでいきたいとイホール氏は話す。(2024年3月・オデーサ・撮影:玉本英子)

<ウクライナ・アートの現場 1>「戦争の中でも希望つなぐ世界はある」イリーナ・スシェルニツカ(画家)

 

 

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